近年、クラウドコンピューティングの普及にともない、多くの企業や公共機関がオンプレミス環境からクラウド環境への移行を進めています。そのなかで、データセキュリティや経済安全保障の観点から「国産クラウド」への注目が高まっています。本記事では、国産クラウドの定義からそのメリット、外資系クラウドとの違い、選定時のポイントまで、幅広く解説します。

海外クラウドと比較したメリット・デメリット

パブリッククラウド比較検討中のSIer・CIer様がお客様へシステム提案するにあたり、適切な環境を選択できるよう、さくらのクラウドと海外クラウドの特徴と構成を比較しました。

国産クラウドとは

まずはじめに、国産クラウドの定義を説明します。クラウドの基礎知識もあわせて確認しましょう。

クラウドの基礎知識

クラウド(クラウドコンピューティング)とは、インターネットを通じてコンピュータリソースをサービスとして提供する形態を指します。企業はハードウェアやソフトウェアを自社で所有・管理する必要がなく、必要に応じて利用することが可能です。

この仕組みを通じて提供されるクラウドサービスは、提供される範囲によって3つに分類されます。

  • IaaS(Infrastructure as a Service): 仮想サーバーやストレージなどのインフラ基盤を提供するサービス。
  • PaaS(Platform as a Service): ミドルウェアやコンテナ実行環境などの開発・実行環境をサービスとして提供するもの。
  • SaaS(Software as a Service): アプリケーションそのものをサービスとして提供するもの。

クラウドコンピューティングやクラウドサービスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

国産クラウドの定義

「国産クラウド」という用語に厳密な定義はありませんが、一般的には以下の条件を満たすサービスを指します。

  • 日本企業が開発・運営 : 外資系企業の日本法人ではなく、日本企業が開発・運営の主体となっているサービス
  • 国内データセンター : サーバーやストレージが日本国内に設置されており、データが国外に流出しない構造
  • 日本の法規制に準拠 : 個人情報保護法やマイナンバー法など、日本の法律・規制に完全準拠

代表的な国産クラウドには、さくらのクラウド(さくらインターネット)、IIJ GIO、FJcloud-V(富士通)、SDPFクラウド(NTTコミュニケーションズ)などがあります。

国産クラウドと外資系クラウドの違い

国産クラウドと外資系クラウド(AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform など)には、次のような違いがあります。

比較項目 国産クラウド 外資系クラウド
運営主体 日本企業が主体となって開発・運営 海外企業(おもに米国企業)が主体
データセンターの所在地 日本国内 グローバルに展開、日本リージョンも提供
法的管轄権 日本の法制度下で運営 日本の法制度に対応している場合もあるが、外国法が適用される可能性がある。
料金体系 円建ての定額制。為替変動の影響を受けにくい 多くが米ドル建て。円安の際にコスト増加の可能性あり
サポート体制 日本語によるサポートが一般的 一部サービスやマニュアルが英語のみの場合も
日本特有の業務慣行対応 年度切り替えや元号対応など日本特有の業務プロセスにカスタマイズ可能 グローバル標準の仕様が基本

国産クラウドが注目される背景

国産クラウドが注目される背景は、次のとおりです。

経済安全保障の重要性の高まり

近年、世界情勢の不安定化にともない、経済安全保障の観点からデジタルインフラを自国で制御する重要性が高まっています。とくに、重要情報を扱う政府機関や金融・医療分野では、クラウドサービスの選定においても安全保障の視点が不可欠です。日本政府は、2022年に経済安全保障推進法を成立させ、重要インフラとしてのクラウドサービスの位置づけを明確化しました。

参考:総務省|経済安全保障推進法

政府のデジタル戦略の一環として

デジタル庁を中心とした政府のデジタル戦略において、国産クラウドの活用促進は重要な柱となっています。2022年に公表された「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」に基づき、国産クラウドの事業者リスト(ISMAPクラウドサービスリスト)が公開されており、政府調達における選択肢が拡大しています。また、経済産業省が推進する「デジタルインフラの整備」政策では、国産クラウド技術の発展に向けた支援策が実施されています。

参考:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)

ISMAPについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

国産クラウド導入の3つのメリット

国産クラウドを導入することによって、おもに次の3つのメリットが得られます。

データ主権の確保

データ主権とは、国や組織がデータの管理に関する自己決定権を持つ概念です。国産クラウドの大きなメリットの1つとして、このデータ主権の確保にあります。

外資系クラウドは、CLOUD Act(米国クラウド法)といった外国法により、企業の意向に関わらず外国政府へのデータ提供を要請される可能性があります。一方で、国産クラウドは、日本の法制度下で一元管理でき、有事には迅速に対応しやすいというメリットがあります。金融・医療機関といった機密性の高い組織にとって、法的透明性とリスク管理の面で大きな価値を提供します。

為替変動に影響されない料金体系

外資系クラウドでは、円安進行時に予期せぬコスト増加が発生する可能性があります。一方、国産クラウドは日本円建ての固定料金制を採用しており、為替変動の影響を回避しやすいというメリットがあります。長期的な予算計画が立てやすく財務管理の負担が軽減できるでしょう。

日本特有のニーズに対応した機能とサポート体制

国産クラウドの強みは、日本の業務慣行に最適化された機能設計にあります。日本語によるサポート体制により、緊急時でも円滑なコミュニケーションが可能となり、対応の遅延を防ぐことができます。さらに、日本特有の業務プロセス(例:年度切り替え、元号対応)や契約慣行に合わせたカスタマイズが容易である点も、導入後の運用効率を高める要素です。

国産クラウド選定時に押さえるべきポイント

国産クラウドを導入・選定する際に押さえておくべきポイントを解説します。

セキュリティ認証と法令遵守状況

国産クラウド選定では、セキュリティ認証の取得状況を最優先で確認しましょう。ISMAP登録やISO 27001、ISMS認証などへの準拠は基本要件です。業種特有の法令(個人情報保護法、金融機関向けFISC基準など)への対応状況も重要な判断基準となります。データの保管場所や処理方法に関する詳細な情報開示を求め、自社のセキュリティポリシーとの整合性を評価することが重要です。

パフォーマンス・可用性

SLAにおける稼働率保証や障害時の対応体制を詳細に確認しましょう。業務クリティカルなシステムでは99.99%以上の可用性を目指します。実際のワークロードに基づくパフォーマンステストを実施し、レスポンス時間や処理能力が要件を満たすか検証することをおすすめします。

SLAについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

機能

自社の運用体制やビジネス要件に合った機能が十分に提供されているかを確認することも重要なポイントです。直感的な管理画面や使いやすいコントロールパネルは、日々の運用負荷を大きく軽減し、効率的なシステム管理を可能にします。また、APIを活用した操作機能やInfrastructure as Code(IaC)対応により、インフラ構築や運用の自動化・再現性が高まり、人的ミスの防止にもつながります。

IaCについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

料金体系

単純な月額コスト比較だけでなく、データ転送料やバックアップ料金などの隠れたコストも含めた総保有コスト(TCO)分析が重要です。リソースの自動スケーリング設定や長期契約による割引の活用、国産クラウド特有の日本企業向けバンドル特典の検討も効果的です。

移行のしやすさ

既存システムからの移行のしやすさも、重要な判断基準です。移行支援ツールや互換性検証環境の有無、移行実績などを確認することが大切です。とくに基幹システムの移行を検討する場合は、検証環境での事前テストが可能か、段階的移行に対応できるかといった点も重要です。

また、ハイブリッド・マルチクラウド環境を視野に入れている場合は、クラウド間連携のためのAPI対応状況や標準技術のサポート状況、データ連携の仕組みを確認しましょう。国産クラウドと外資系クラウドを用途に応じて使い分ける場合にも、それぞれの強みを活かした環境構築が可能です。

ハイブリッドクラウド、マルチクラウドについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

業種・規模特有の要件

ひと言で国産クラウドといっても、業種や組織規模によって重視すべきポイントは異なります。たとえば、公共機関や金融機関ではとくに高いセキュリティと堅牢性がとくに重要視されます。特定業種向けのテンプレートや機能の有無も、運用効率化の観点から重要な判断材料となります。組織規模に応じたスケーラビリティや、業界固有のコンプライアンス要件への対応状況も確認しましょう。

まとめ

国産クラウドとは、日本企業が開発・運営し、データセンターが日本国内に設置されているクラウドサービスです。データ主権の確保や為替変動に左右されない料金体系など、多くのメリットがあります。とくに、金融・医療といった機密性の高い分野では、セキュリティと法規制対応の観点から国産クラウドの価値が高まっています。選定の際は、セキュリティ認証、パフォーマンス、機能、移行性などを多角的に評価することが重要です。

さくらインターネットが提供する「さくらのクラウド」は、政府情報システムのセキュリティ基準を満たし、ISMAPに登録されています。そのため、企業や公共機関の信頼できるクラウド基盤として活用いただけます。国産クラウド導入に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

海外クラウドと比較したメリット・デメリット

パブリッククラウド比較検討中のSIer・CIer様がお客様へシステム提案するにあたり、適切な環境を選択できるよう、さくらのクラウドと海外クラウドの特徴と構成を比較しました。

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