クラウドコンピューティングとは?定義や仕組み・メリットを解説
「クラウドは知っているけど、具体的にどう活用すればいいのか分からない...」そんな悩みを抱える方は多いのではないでしょうか。
この記事では、クラウドコンピューティングの基本から活用方法、クラウドの選び方、導入手順まで、実例を交えてわかりやすく解説します。
ITコストの最適化や、システムの柔軟な拡張方法、セキュリティ対策の具体策など、ビジネスの成長に直結する実践的な知識が得られます。初めてのクラウド導入や、既存システムの見直しをお考えの方は、ぜひご活用ください。
クラウドコンピューティングとは:定義と基本概念
クラウドコンピューティングは、インターネットを介してコンピュータのリソースを提供することです。ストレージやデータベース、サーバー、ネットワーキング、AIなどのITインフラを、オンプレミス環境で構築しなくても利用できます。
これまでは企業が自社でサーバーやソフトウェアを購入・管理する必要がありましたが、クラウドコンピューティングでは、必要な時に必要な分だけを利用できます。
クラウドコンピューティングにより、企業のIT活用は大きく変わりました。初期投資を抑えられ、システムの導入や拡張がスピーディにできるようになり、場所を問わずサービスを利用できるようになりました。
クラウドコンピューティングの仕組み
クラウドコンピューティングの中核を担うのが「仮想化」という技術です。仮想化とは、1台の物理的なサーバー上に複数の仮想的なサーバーを作り出す技術です。たとえば、1台のサーバーのCPUやメモリを複数のユーザーで分割して使用できます。
また、データセンターに置かれた多数のサーバーをネットワークで結び(ネットワーキング)、あたかも1つの大きなコンピュータのように使える仕組み(分散コンピューティング)も特徴です。
大きな処理を分担して実行できるようになり、たとえば、膨大な画像データの認識処理を100台のコンピュータで分担することで、1台では数日かかる処理を短時間で終えることができます。
クラウドコンピューティングの特性
クラウドコンピューティングのおもな特性は、次の5つです。
- オンデマンドセルフサービス
- 範囲の広いネットワークアクセス
- リソースの動的な割り当て
- システムの迅速な拡張・縮小
- サービスの正確な測定
オンデマンドセルフサービス
オンデマンドセルフサービスとは、ユーザーが自分で必要なときに必要なサービスを選んで使えることです。
サーバーの容量を増やしたいときに、クラウドプロバイダーに連絡することなくWeb上で簡単に設定を変更できます。リソースの調達にかかる時間と手間を削減できるでしょう。
範囲の広いネットワークアクセス
インターネットに接続できる環境があれば、パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットなど、さまざまな端末からサービスを利用できます。
場所や時間を問わず、必要な情報やサービスにアクセスできます。外回りやリモートワークで働く際に役立つでしょう。
システムの迅速な拡張・縮小
利用状況に応じて、システムの規模をスピーディに拡大したり縮小したりできます。
Webサイトへのアクセスが急増した場合でも、自動的にサーバーの処理能力を増やして対応できます。逆に、アクセスが減少した時は規模を縮小して、コストを適正に保てるでしょう。
サービスの正確な測定
利用したサービスの量を正確に計測し、それに応じた料金を請求する仕組みです。
電気やガスのように使用した分だけを支払う「従量課金制」を採用しています。無駄なコストを抑えながらクラウドコンピューティングを利用できます。
クラウドコンピューティングの用途と活用例
おもな用途として、データストレージやアプリケーション開発、ビッグデータ分析などが挙げられます。
データストレージでは、重要な情報を安全に保管でき、必要なときに必要な場所からアクセスできます。また、保存容量を簡単に増やせるため、データ量の増加にも対応しやすいです。
アプリケーション開発では、開発環境の構築から運用まで、すべてをクラウド上でおこなえます。開発チームのメンバーが離れた場所にいても、同じ環境で作業を進められます。
ビッグデータ分析では、膨大なデータを処理するためのコンピューティングリソースを、必要なときだけ利用できます。購買データを分析して販売戦略を立てたり、センサーデータを分析して製品の品質管理をおこなったりできます。
活用例
オンライン会議システム
- Zoom や Microsoft Teams などのビデオ会議サービス
- クラウド上でデータを処理し、複数名での安定した通信を実現
- 画面共有や録画機能も提供
ECサイト運営
- Shopifyなどのeコマースプラットフォーム
- サーバー管理不要で、すぐにオンラインショップを開設可能
- アクセス数に応じて自動的にシステムが拡張
AIサービス
- 機械学習やAI開発に求められる高性能な計算環境を提供
- データの学習から予測モデルの運用まで、すべてクラウド上で実現
- 必要なときにだけ計算資源を利用
クラウドコンピューティングの種類
クラウドコンピューティングは、利用形態や提供方法によってさまざまな種類に分類されます。
クラウドデプロイメントモデル
クラウドデプロイメントモデルとは、クラウドサービスをどのように提供・運用するかを示す形態のことです。企業の規模やセキュリティ要件、コスト面などを考慮して、最適なモデルを選択することが一般的です。
おもなデプロイメントモデルには以下の3つがあります。
- パブリッククラウド
- プライベートクラウド
- ハイブリッドクラウド
パブリッククラウド
インターネットを通じて誰でも利用できる形態です。Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudなどが代表例です。初期費用を抑えられ、すぐに使い始められるのが特徴です。
利用した分だけ料金を支払う従量課金制で、中小企業や新規プロジェクトの立ち上げに適しています。
プライベートクラウド
ある組織だけが利用する専用のクラウド環境です。自社でインフラを構築・運用するため、セキュリティレベルや運用ポリシーを細かく設定できます。
金融機関や医療機関など機密性の高い情報を扱う組織に適していますが、構築・運用にコストがかかるでしょう。
ハイブリッドクラウド
パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせた形態です。重要なデータはプライベートクラウドで管理し、一般的な業務はパブリッククラウドで処理するなど、用途に応じて使い分けられます。
クラウドサービスモデル
クラウドサービスモデルとは、クラウド上で提供されるサービスの範囲や形態を示すものです。
おもなサービスモデルには以下の3つがあります。
- SaaS(Software as a Service)
- PaaS(Platform as a Service)
- IaaS(Infrastructure as a Service)
SaaS(Software as a Service)
完成したソフトウェアを提供するサービスです。Gmailなどのメールサービスや、Office 365などのビジネスソフトが代表例です。
ソフトウェアのインストールや管理をおこなう必要がなく、ブラウザさえあれば利用できます。ITにくわしくない従業員が多い企業や、手軽にサービスを利用したい場合に適しています。
PaaS(Platform as a Service)
アプリケーションの開発環境やライブラリを提供するサービスです。Salesforce Platformなどが該当します。
開発者は、サーバーやミドルウェアの設定・管理を気にすることなく、アプリケーションの開発に集中できます。自社でアプリケーションを開発する企業や、新しいサービスを早くリリースしたい場合に適しています。
IaaS(Infrastructure as a Service)
ネットワークやサーバーシステム、ストレージなどのIT基盤を提供するサービスです。Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどが代表例です。
自社でサーバーを設置・管理する必要がありません。システムを細かくカスタマイズしたい企業や、既存のシステムをクラウドに移行する場合に適しています。
クラウドコンピューティングの導入メリット
クラウドコンピューティングを導入することで、企業はさまざまなメリットを得られます。
- コスト削減と初期投資の抑制
- 拡張性と柔軟性の向上
- パフォーマンスと実行速度の改善
- セキュリティの強化とデータ保護
- グローバルアクセスとモビリティの向上
- イノベーションの促進と競争力の強化
コスト削減と初期投資の抑制
クラウドを利用することで、サーバーやネットワーク機器などの購入が不要になり、初期投資を抑えられます。
また、使用量に応じた従量課金制のため、無駄な支出を減らせます。保守・運用の人件費も削減でき、IT投資の効率化が図れるでしょう。
拡張性と柔軟性の向上
ビジネスの成長に合わせて、システムの規模を簡単に拡張できます。たとえば、繁忙期には処理能力を増強し、閑散期には縮小するといった運用が可能です。
新しいサービスの追加や、既存システムの改善もスピーディにおこなえるので、ベンチャーなど成長の激しい企業にも適しているでしょう。
パフォーマンスと実行速度の改善
クラウドプロバイダーはつねに最新の高性能なハードウェアを提供しています。また、各地にデータセンターを配置し、利用者の近くのサーバーからサービスを提供することで、高速なレスポンスを実現しています。
ビッグデータ分析やAI処理など、高い処理能力が求められる作業にも対応できるでしょう。
セキュリティの強化とデータ保護
一般的なクラウドプロバイダーは、最新のセキュリティ技術と24時間365日の監視体制を整えています。
データは複数のデータセンターに分散して保存され、災害時のバックアップも確実です。また、セキュリティ対策の更新も自動的におこなわれるため、安全な環境を維持できます。
グローバルアクセスとモビリティの向上
インターネット接続があれば、世界中のどこからでもシステムにアクセスできます。テレワークやモバイルワークが容易になり、より多様な働き方ができるでしょう。
また、海外拠点との連携や、グローバルなビジネス展開にも役立てられます。
イノベーションの促進と競争力の強化
最新のテクノロジーを低コストで利用できるため、新しいサービスや商品の開発が加速します。また、AIやIoTなどの先端技術も、クラウド上で手軽に活用できます。
イノベーションが促進され、市場での競争力強化につながるでしょう。
クラウドコンピューティングサービスの選定と導入
クラウドサービス選定のポイントと、導入プロセスについて解説します。
代表的なクラウドプロバイダー
主要なクラウドプロバイダーについて表にまとめました。
プロバイダー | 強み・特徴 | おもなサービス |
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Amazon Web Services (AWS) |
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Microsoft Azure |
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Google Cloud |
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Oracle Cloud Infrastructure (OCI) |
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さくらのクラウド |
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さくらのクラウドは、東京と、北海道の石狩にあるデータセンターを活用し、企業向けに最適化されたサービスを提供しています。
また、WordPressやEC-CUBE、Nextcloudといった人気のアプリケーションが即時デプロイでき、電話やチャットによる日本語での技術サポートも提供しています。
AWSやAzureのような複雑な料金体系とは異なり、リソース単位の定額制を採用している点も特徴です。
クラウドサービス選定のポイント
クラウドサービス選定のポイントは、次の通りです。
- 機能と性能の評価
- セキュリティとコンプライアンスの確認
- サポート体制と信頼性の検討
機能と性能の評価
クラウドサービスを選ぶ際は、まず自社のニーズに合った機能と性能を備えているかを確認しましょう。必要なコンピューティング能力やストレージ容量が確保できるか、自社のアプリケーションが問題なく動作するかを検証する必要があります。
また、今後の事業拡大に備えて、システムの拡張性も評価したい点です。パフォーマンス面では、レスポンス時間やデータ転送速度が業務に支障をきたさないレベルであることを確認しましょう。
セキュリティとコンプライアンスの確認
データ暗号化の仕組みやアクセス制御の方法が、十分なセキュリティレベルを満たしているか確認しましょう。
また、監査ログ(操作履歴の記録)の取得方法や、個人情報保護法などへの対応、ISMSなどセキュリティ認証の取得状況なども確認が必要です。
サポート体制と信頼性の検討
クラウドサービスを安定して運用するためには、充実したサポート体制が欠かせません。24時間365日の監視体制や、日本語による技術的なサポートの有無は確認したいところです。
また、障害発生時の復旧手順や、サービス・レベル契約(提供できるパフォーマンスレベルを定義する契約)の内容も確認しましょう。
クラウド移行の計画と実施
クラウド移行の計画と実施については、次の通りです。
- 既存システムとの統合
- データ移行戦略
既存システムとの統合
既存システムとクラウドの連携は、慎重に計画し、実行していく必要があります。
オンプレミスシステムとの接続方法や、データの同期方法を十分に検討し、セキュリティを確保しながら段階的に移行を進めることが大切です。
ユーザーへの影響を最小限に抑えるため、業務時間外での実行や、十分なテスト期間の確保が必要でしょう。
データ移行戦略
まず、データの重要度や業務への影響度を踏まえて、優先順位を付けた移行計画を立てましょう。
移行作業中のデータ整合性を確保するため、適切なバックアップと復旧計画を準備し、段階的なテストを実施しながら慎重に進めていくことが重要です。
また、移行後の検証も忘れずに計画に含めましょう。
クラウドコンピューティングの課題と対策
クラウドコンピューティング導入に伴うおもな課題は、次の通りです。
- セキュリティリスクとその対応
- ベンダーロックインの回避
- コスト管理と最適化
- 法規制とデータガバナンスへの対応
セキュリティリスクとその対応
クラウドサービスの利用には、オンプレミス環境とは異なるセキュリティリスクが存在します。外部からの不正アクセスや、情報漏洩のリスクに対しては、多要素認証の導入やデータ・通信の暗号化が有効です。
また、クラウドプロバイダーが提供するセキュリティ機能を活用し、アクセス権限の細かな設定や、定期的なセキュリティ監査の実施も重要です。社員向けのセキュリティ教育も、リスク低減に欠かせません。
ベンダーロックインの回避
ベンダーロックインとは、特定のクラウドプロバイダーのサービスや技術に依存してしまい、ほかのプロバイダーへの移行が難しくなる状態を指します。
これを防ぐためには、マルチクラウドやハイブリッドクラウドを採用し、特定のベンダーに対する依存を最小限に抑えましょう。
また、データやアプリケーションの可搬性を確保し、必要に応じて別のプロバイダーへ移行できる柔軟性を維持することが望ましいでしょう。
コスト管理と最適化
クラウドサービスは従量課金制が基本ですが、使用状況をきちんと把握できていないと予想以上にコストが膨らむかもしれません。
リソースの使用状況をつねにモニタリングし、不要なインスタンスの停止や、適切なインスタンスタイプの選択を行うといいでしょう。
また、リザーブドインスタンスなどの割引プランの活用や、自動スケーリングの設定により、コストの最適化を図ることができます。
法規制とデータガバナンスへの対応
クラウドサービスの利用には、さまざまな法規制やコンプライアンスへの対応が求められます。
個人情報保護法や業界固有の規制(米国のHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)など)に加え、データの保存場所に関する制約など、考慮すべき要件は多岐にわたります。
対策としては、データの分類と管理方針の策定、データ保存場所の選択、監査ログの確保など、データガバナンス体制を構築することが大切です。
まとめ
クラウドコンピューティングは、インターネットを通じてコンピューティングリソースを必要なときに必要なだけ利用できる技術です。今回は、クラウドコンピューティングの基本的な仕組みから、種類、メリット、導入時の注意点まで解説しました。
中でもIaaSは、クラウドコンピューティングの基盤となるサービスモデルです。仮想サーバーやストレージなどのインフラ環境を従量課金で利用でき、システムを柔軟にカスタマイズできることが特徴です。IaaSについてよりくわしく知りたい方や、クラウドサービス全般について基礎から学びたい方は以下をご覧ください。
さくらのクラウドチーム
コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。