マルチクラウドとは?ハイブリッドクラウドとの違いやメリット・デメリット

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デジタル化の波が加速するなか、多くの企業がクラウドサービスの活用を迫られています。しかし「コストが予想以上にかかる」「特定のベンダーに依存してしまう」「システムの安定性に不安がある」といった課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
このような課題を解決する手段として注目を集めているのが「マルチクラウド」です。この記事では、複数のクラウドを組み合わせることのメリットや導入方法をわかりやすく解説します。

目次
  1. マルチクラウドとは
  2. マルチクラウドとシングルクラウドの比較
  3. マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い
    1. ハイブリッドクラウドの特性と利用例
    2. マルチクラウドとハイブリッドクラウドの比較
  4. マルチクラウド導入のメリット
    1. コストの最適化
    2. ベンダーロックインの回避
    3. パフォーマンスとセキュリティの向上
  5. マルチクラウド導入のデメリット
  6. 効果的なマルチクラウド戦略の立案と実施
    1. 1.目的の設定
    2. 2.クラウドベンダーの選定
    3. 3.移行計画の検討・運用体制の整備
  7. マルチクラウド環境の管理とセキュリティ対策
    1. 統合的なマルチクラウド管理ツールの活用
    2. クラウド間のセキュリティ確保
  8. まとめ

マルチクラウドとは

マルチクラウドとは、2つ以上のクラウドサービスを組み合わせて利用する形態のことです。たとえば、データの保管にはAWS(Amazon Web Services)、AIの処理にはGoogle Cloud利用するなど、目的に応じて最適なクラウドサービスを選びます。

クラウドサービスは2000年代半ばから急速に普及し、新型コロナによるテレワークの広がりでさらに導入が加速しました。日本政府ではデジタル庁が設立され、「ガバメントクラウド」の取り組みを開始するなど、社会全体でクラウド活用が進んでおり、同時に「マルチクラウド」への注目も高まっています。

マルチクラウドは、複数のクラウドサービスを組み合わせることで、企業のニーズに合わせた対応が可能です。また、特定のベンダー(クラウドサービスの提供事業者)への依存を避けられます。

マルチクラウドとシングルクラウドの比較

シングルクラウドは、1つのクラウドサービスですべての機能を利用する形態です。導入が簡単で管理もしやすく、コストを抑えられるのがメリットです。
ただし、利用しているクラウドサービスが停止すると、全システムが使えなくなるといったデメリットもあります。

一方、マルチクラウドは複数のサービスを使うため、1つのサービスが停止してもほかのサービスで補うことができます。また、各サービスの機能を活かし柔軟性に優れたシステム作りが可能です。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウド(AWSなどの一般向けサービス)やプライベートクラウド(自社専用のクラウド)を組み合わせて使う形態です。

一方、マルチクラウドは同じ形態のクラウドを組み合わせて使います。たとえば、2つ以上のパブリッククラウドを使う場合や、2つ以上のプライベートクラウドを使う場合が挙げられます。

ハイブリッドクラウドの特性と利用例

ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとプライベートクラウドを統合して1つのシステムとして運用します。基本的な構成は、機密性の高い情報を自社システムで管理し、一般的な処理をパブリッククラウドでおこなうというものです。
おもな特徴は、次の通りです。

  • セキュリティが重要なデータを自社で管理できる
  • コストを抑えながら必要な機能を利用できる
  • システムの拡張性が高い

よくある利用例として、基幹システムは自社で運用しながら、メールやファイル共有といった一般業務にはパブリッククラウドを活用するケースが挙げられます。

また、通常時はプライベートクラウドを使い、アクセスが急増する時期はパブリッククラウドを併用して処理を分担する方法もあります。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの比較

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違いを表にまとめました。

 マルチクラウドハイブリッドクラウド
定義同じ形態のクラウドを複数利用パブリッククラウドとプライベートクラウドの組み合わせ
サービスの統合統合しない統合する
クラウドの相互接続不要必要
おもな用途
  • 各サービスの得意分野で使い分け
  • システム停止への備え(BCP対策)
  • 地域別に最適化して運用
  • 機密情報は自社で管理
  • 一般業務はパブリッククラウドで処理
  • 負荷に応じた柔軟な運用

どちらを選ぶかの基準は、おもにセキュリティ要件とコスト効率にあります。

高度なセキュリティ管理が求められる金融機関や医療機関などでは、機密データを自社で管理できるハイブリッドクラウドが適しています。

一方マルチクラウドは、クラウドサービスを目的別に使い分けたい場合に向いています。たとえば、データの保管はコストが安いAWS、機械学習は高度な機能を有するGoogle Cloud、社内のコミュニケーションはMicrosoft 365との相性が良いAzureというように、各サービスの特長を活かした使い方ができます。

マルチクラウド導入のメリット

マルチクラウドを導入することで、以下のメリットが得られます。

  • コストの最適化
  • ベンダーロックインの回避
  • パフォーマンスとセキュリティの向上

コストの最適化

クラウドの使用目的に応じてサービスを選択することで、コストを最適化できます。

たとえば、日常的なデータの保管には料金の安いサービスを選び、高い処理能力が求められるデータ分析には処理性能の高いサービスを使うといった組み合わせが適しているでしょう。

また、利用状況に応じて最適なサービスに切り替えることで、無駄な支出を抑えることができます。複数のベンダーを比較検討できるため、コスパの良いサービスを選ぶことも可能です。

ベンダーロックインの回避

ベンダーロックインとは、特定のクラウド事業者(ベンダー)のサービスに依存してしまい、ほかのサービスに移行することが難しくなってしまうことです。

「ベンダー独自の機能を使いすぎて、ほかのサービスでは同じことができない」、「社内のエンジニアがそのベンダーの技術に特化してしまっている」などの問題が起こります。

単一のベンダーに依存していると、ほかのサービスへの移行が難しくなります。サービスの値上げや品質低下、AIなどの新しい技術への対応の際、身動きが取りにいでしょう。

マルチクラウドでは複数のサービスを併用することで、ベンダーロックインを避けて柔軟な運用が可能です。

パフォーマンスとセキュリティの向上

複数のクラウドを適切に組み合わせることで、システム全体のパフォーマンスとセキュリティを高めることができます。

パフォーマンス面では、負荷が集中する時間帯がある場合、複数のクラウドサービスに処理を分散させることで、レスポンスの低下を防げます。

セキュリティ面では、たとえばあるクラウドサービスにDDoS攻撃などのサイバー攻撃が集中しても、すぐに別のクラウドサービスに切り替えることで、業務を継続できます。
また、データセンターを地理的に離れた場所に設けることで災害にも対応可能です。

マルチクラウド導入のデメリット

複数のクラウドサービスを組み合わせて使うマルチクラウドには、いくつかの注意点があります。

まず運用が複雑になりがちです。それぞれのサービスで設定や管理の方法が異なるため、担当者の負担が大きくなります。

また、それぞれのクラウドサービスに関する知識やスキルが必要なため、エンジニアの育成や確保も不可欠でしょう。
複数のサービスを併用するため、シングルクラウドと比べ費用がかさむ可能性もあります。

こうしたデメリットを理解したうえで、自社にとってメリットが大きいかどうかを判断することが重要です。

効果的なマルチクラウド戦略の立案と実施

効果的にマルチクラウドを導入するための戦略の立案と実施について、以下の流れに沿って解説します。

  1. 目的の設定
  2. クラウドベンダーの選定
  3. 移行計画の検討・運用体制の整備

1.目的の設定

マルチクラウド導入の目的は、できるだけ具体的に定める必要があります。

「コストの削減」「システムの安定性向上」「サービスの処理速度の改善」など、目標を明確にすることで必要なサービスの選び方が見えてくるでしょう。

また目的の達成のため、現在抱えている課題はなにか、マルチクラウドでどう解決できるのか、導入後にどんな効果を期待するのかといった点を整理する必要があります。

目的があいまいだと、結果的に無駄な投資になってしまう恐れがありますので、数値目標を含めて具体的に検討しましょう。

2.クラウドベンダーの選定

クラウドベンダーを選ぶ際は、コスト、性能、サポート体制などを総合的に評価する必要があります。

たとえば、AWSは機能が豊富で実績も多く、Google Cloudは機械学習が得意、Azureはマイクロソフト製品との相性が良いといった特徴があります。

マルチクラウドを導入済みの企業で、より効率的な運用をしたいなら「さくらのクラウド×AWS」の組み合わせがおすすめです。

さくらのクラウドはデータ転送量が無料となっているため、コストの予測が立てやすく、予期せぬ出費を避けられます。

また、東京と石狩の2拠点で国内トップクラスの大容量高速ネットワークを実現し、障害時には自動復旧機能も備えています。コントロールパネルは日本語表記のため、なじみやすく、直感的に操作が可能です。

これにAWSを組み合わせることで、グローバルな展開や高度なAI機能の利用など、世界標準のクラウドサービスのメリットも得られます。

「日常的な運用はさくらのクラウド、特殊な処理はAWS」というように用途に応じた使い分けが可能です。くわしくは、資料をダウンロードしてご確認ください。

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3.移行計画の検討・運用体制の整備

マルチクラウドへの移行は、慎重に計画を立てて段階的に進めることが大切です。

まずは影響の少ない小規模なシステムから始めて、その結果を確認しながら徐々に範囲を広げていきましょう。ポイントは、システムごとの優先順位や依存関係を整理して、移行による影響を最小限に抑えることです。

また、運用体制の整備も重要です。担当者の育成計画を立て、トラブル発生時の対応手順を決め、運用状況をチェックする体制を整えましょう。

マルチクラウド環境の管理とセキュリティ対策

マルチクラウド環境の管理とセキュリティ対策の重要性について解説します。

統合的なマルチクラウド管理ツールの活用

マルチクラウド環境における統合管理ツールは、「VMware Aria Operations」や「Morpheus」などがあり、複数のクラウドを一元的に管理できます。

管理ツールには、各クラウドの利用料金の可視化や予算アラート設定などのコスト管理機能、さらにリソース使用状況を自動でレポート生成する機能などが備わっています。

管理ツールにより機能が異なりますので、使いやすさはもちろん、自社の規模や要件に合っているか、必要な機能を備えているかなどを確認しましょう。

また、新しいクラウドサービスへの対応やAPI連携など、将来の拡張性を踏まえるとことも重要です。

クラウド間のセキュリティ確保

マルチクラウド環境では、複数のクラウド間でデータのやり取りが発生するため、より慎重なセキュリティ対策が求められます。

まずデータ転送時の暗号化は必須です。また、各クラウドサービスへのアクセス権限を管理し、定期的なセキュリティ監査も欠かせません。

各クラウドサービスのセキュリティ基準を把握し、全体として一定水準以上の安全性確保が重要です。対策を怠ると、情報漏洩などのセキュリティインシデントにつながる可能性があります。

まとめ

マルチクラウドは、複数のクラウドサービスを目的に応じて使い分けることで、コスト最適化やベンダーロックインの回避、システムの安定性向上などのメリットが得られる運用形態です。一方で、運用の複雑さやセキュリティ管理など、検討すべき課題もあります。

国内に強固なインフラを持つさくらのクラウドと、グローバルスタンダードであるAWSの組み合わせは、コストと利便性の両立が可能です。とくに日本国内の企業にとっては利用しやすいでしょう。

マルチクラウドの構築方法や、さくらのクラウドとAWSの接続によって得られるメリットについて、くわしくは以下の資料をご覧ください。サービス紹介からシステム構成まで、実践的な情報を掲載しています。

さくらのクラウドチーム
制作者

さくらのクラウドチーム

コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。