SLAとは?IaaSクラウド選びにおける重要性や違反時の対応を解説
「IaaSクラウドにおけるSLAの重要性や、SLAとほかの契約との関係性がよくわからない」「IaaSサービスのSLAに違反した際は、どんな対応になるのだろう」IT部門の担当者の方や経営層の方のなかには、このようにお考えの方も多いでしょう。本記事ではSLAについてていねいにわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。
SLAとは
SLAはService Level Agreement(サービス・レベル・アグリーメント)の略で、日本語では、サービス品質保証やサービス品質保証契約などと呼ばれます。SLAとは、顧客がサービス提供者とサービスの品質や基準に関する合意を交わす契約のことです。
たとえば、クラウドサービスやレンタルサーバーなどのサービスにSLAが適用される場合があります。
これらのサービスでは、品質やパフォーマンスについて、顧客とサービス提供者の間で認識にズレが生じるケースもあります。そのようなトラブルを予防し、問題が起きた場合に速やかに解決するためにSLAが設定されるのです。
また、SLAは「目標保証型」の取り決めであり、多くの場合、サービス水準を下回った場合のペナルティや補償がSLAに明記されています。
たとえば「Amazon S3」のSLAでは、月間稼働率が基準値よりも低くならないように努力することを約束しています。それを踏まえて、基準値より低くなった場合は、低下した程度に基づいて返金すると書いているのです。
【参考】Amazon S3サービスレベルアグリーメント(Amazon Web Services)
IaaSクラウド選びにおけるSLAの重要性
IaaSクラウド選びにおいて、SLAはサービスの安定性や信頼性を保証するうえで重要な要素になります。SLAは、可用性や稼働率などのサービス品質の基準と保証を定めた契約であるため、保証された品質の水準を知るための指標になるからです。
SLAを重視せずにサービスを選んだ場合、以下のような問題が生じるおそれがあります。
- 必要な性能を満たせず、パフォーマンス不足やダウンタイムが発生する
- サービスの可用性やパフォーマンス水準が不明で、期待していた品質に達しない
- トラブルが元で顧客満足度が落ちる
このような事態を防ぐためにも、新しいクラウドサービスを導入するときは、SLAの各項目をよく確認しましょう。
主要なIaaSクラウドのSLA比較
ここからは、代表的なIaaSクラウドサービス3社のSLAを紹介し、比較していきます。
紹介する3社は、以下のとおりです。
- AWS(Amazon Web Services)
- Microsoft Azure
- Google Cloud
それぞれについて、説明します。
AWS(Amazon Web Services)
AWSとは、Amazonが提供するITリソースを利用できるクラウドサービスです。AWSは非常に多くのサービスを提供しています。具体的には、コンピューティング、ストレージ、データベース、機械学習、AI、データレイクと分析、IoT などです。各サービスの機能が豊富である点も高く評価されています。
AWSのSLAは、以下のとおりです。
- 「Amazon EC2」(仮想サーバーのサービス)の月間稼働率は99.99%以上
- 「Amazon S3」(ストレージのサービス)の可用性は99.99%になるように設計されている
- 「Amazon RDS」(データベースのサービス)の月間稼働率は99.95%以上
【参考】AWS サービスレベルアグリーメント(Amazon Web Services)
なお、上に記載した「Amazon EC2」と「Amazon S3」のSLAの数値は、「マルチAZ」を利用していないと適用されません。
「AZ」とは、ひとつの地域のなかの独立した区域(ゾーン)のことです。つまり「マルチAZ」とは、ひとつの地域のなかで、独立した複数のゾーンにわたってサービスを実行することです。
AZ単位で冗長化することにより、ネットワークのトラブルや停電や建物の火災などの事故で、壊滅的な被害を回避できる利点があります。このためSLAが高くなります。
SLAを踏まえたAWSの強みはビジネスの継続性が確保できる点です。理由は「Amazon EC2」や「Amazon S3」のSLAは99.99%以上の稼働率を提供しているからです。稼働率が高いため障害が起きにくく、ビジネスの継続性が確保しやすくなります。
Microsoft Azure
Microsoft Azureとは、Microsoft社によって提供されているクラウドサービスです。サーバーなどのITインフラからAIの機械学習、ブロックチェーンなどの開発業務まで取り扱っています。富士通やコカ・コーラなどの有名企業も使用している点や、無料で使えるサービスが多い点が特徴です。
Microsoft Azureが提供する仮想マシンのサービス「Azure Virtual Machines」のSLAは、以下のとおりです。
- 単一の仮想マシンの場合、稼働率は99.9%以上
- 同じ可用性ゾーンにいくつかの仮想マシンを設置する場合、稼働率は99.95%以上
- 同じリージョン内のいくつかの可用性ゾーンに設置する場合、稼働率は99.99%以上
【参考】Service Level Agreements (SLA) for Online Services
Microsoft Azureでは、サービスの利用の仕方のパターンごとにSLAの数値を変えています。これにより、必要な機能によって利用の仕方を選べるため経済的です。
強みと弱みをそれぞれ考慮して、自社に最適なサービスを選びましょう。
Google Cloud
Google Cloudとは、Googleによってクラウド上で提供されるサービス群のことです。Google社内の高性能インフラを使えば、一瞬で数十億もの検索結果を表示できたり、4億2,500万人以上のユーザーにストレージを提供できたりします。Google Cloudでは、それと同レベルのインフラを低いコストで利用できるのです。
Google Cloudが提供する仮想マシンのサービス「Compute Engine」のSLAは、以下のとおりです。
- 単一の仮想マシン
- さまざまな地域に渡ったサービス
- ロードバランシング(いくつかの仮想マシンを組み合わせる機能)
【参考】Compute Engine Service Level Agreement (SLA)
いずれのサービスもGoogle Cloudネットワークを利用するプレミアムの場合の稼働率は99.99%以上、通常のISPネットワークを利用するスタンダードの場合の稼働率は99.9%以上です。
SLAを考慮したGoogle Cloudの強みは、最先端の技術を利用できて、負荷が大きい処理も可能である点などです。
自社で使いたい機能や必要事項を整理して、強みと弱みを念頭に置きながらサービスを選びましょう。
IaaSクラウドサービスを選ぶ際にSLAで確認するべき項目
IaaSクラウドサービスを選ぶ際は、SLAで以下の要素を確認しましょう。
- 導入を考えているクラウドサービスがSLAの対象なのかどうか
- 稼働率がどのくらい高いか
- サービスの提供範囲
このほかにも、サポートの手厚さなどを考慮することで、万が一のときに頼りになり心強いでしょう。各要素をよく考えて自社に合ったサービスを選びましょう。
SLA以外の手段
サービスレベルを示す手段には、ここまで紹介してきたSLAのほかにも、SLOや、SLAとSLOの混合型があります。違反した場合の対応方法の違いを中心に紹介します。
SLO(Service Level Objective)
SLO(Service Level Objective)は「努力目標型」であり、基準値に達しなかった場合、サービス内容の改善などをする責任を負います。SLOは、保証ではなく目標値として設定している場合が多いです。
SLOとSLAを混同してしまう人もいると思います。SLAは保証なので違約金などのペナルティが生じるのに対し、SLOはあくまで目標なので違約金が生じない場合が多い点に注意しましょう。
具体例として、サイボウズのクラウドサービスのSLOを紹介します。サービス稼働率のSLOでは、99.99%を目標に運用することが書かれています。これは目標値であり、基準値を下回った場合に違約金を保証することは書かれていません。サイボウズは、SLOではなく、利用規約にて返金について定めています。
【出典】サービスレベル目標(SLO)サイボウズのクラウド基盤
このように、SLOはあくまで目標値であり、保証とは異なるのです。サイボウズのように、SLOとは別に違約金の設定をしている企業もあります。
混合型
SLAとSLOの「混合型」が採用される場合もあります。
前提として、多くの場合、SLAで定めるサービス品質には、サービスの可用性、データの整合性、応答時間、サポートの品質など複数の項目があります。そこで、それぞれの項目の重要度に応じて、「目標保証型」と「努力目標型」を使い分け、柔軟に対応します。具体的には、ある項目については目標保証型を適用して違約金の保証をしますが、別の項目では、努力目標型を適用して保証しないといった対応となります。
項目のレベルに応じて柔軟に設定できるのが、混合型のメリットです。
SLAとその他契約との関係性
IaaSクラウドサービスを利用する際には、SLAのほかにもさまざまな契約を締結します。ここでは、SLAとその他の契約との関係性を解説します。紹介する契約は次の2つです。
- NDA(秘密保持契約)
- ソフトウェアライセンス契約
関係性を知ってクラウドサービスの選定に役立てましょう。
NDA(秘密保持契約)
NDA(秘密保持契約)とは、ビジネス上での重要な情報が第三者に漏れないように、情報開示を制限する契約です。顧客情報や技術情報などには機密性が高いものもあります。それらの情報漏洩や不正利用を防ぐために、提供した情報を本来の目的以外で利用したり、第三者に開示したりすることを法的に制限します。
また、SLAとNDAの関係性は、互いに補完し合う関係と言えるでしょう。SLAがサービスの品質や提供内容に焦点をあてる一方で、NDAはその契約内容に関連する機密情報が漏洩しないように保護するからです。
ソフトウェアライセンス契約
ソフトウェアライセンス契約とは、権利者が、ソフトウェアを利用したい人に対して使用を許可する契約です。使用に関してのルールを定めてソフトウェア開発者の権利を守ったり、許可の条件のとおりに使用されているか確認したりするために契約されます。
ソフトウェアライセンス契約とSLAは密接に関係します。クラウドサービス提供者は、利用者にソフトウェアの使用権を与えると同時に、そのソフトウェアがSLAで設定した水準で動作することを保証するのです。
まとめ
この記事では、IaaSクラウドにおけるSLAの重要性や、主要なクラウドサービスのSLA比較などについて解説しました。SLAはサービスの品質保証を定めていて、サービスを選ぶときに重要視すべき項目の1つです。
IT部門の担当者の方や、クラウドサービスを導入したい経営者の方は、SLAの内容をしっかりと確認してサービスを選ぶことをおすすめします。そうすれば、効果的な導入が実現できるでしょう。
「さくらのクラウド」では月間サーバー稼働率99.95%以上を保証
最後に、SLAが定められており、安心して利用できるクラウドサービス「さくらのクラウド」をご紹介します。
「さくらのクラウド」とは、さくらインターネット株式会社が提供するクラウドサービスです。
「さくらのクラウド」の月間サーバー稼働率に関するSLAは、99.95%以上を保証しています。また、利用者が利用する「さくらのクラウド」における月間サーバー稼働率が、SLAの基準値に満たなかった場合、稼働を満たさなかった部分の利用サービスの料金(「サーバー料金+ディスク料金」のみが対象)を減額することも保証しています。
「さくらのクラウド」のメリットは、ほかにもたくさんあります。
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- 複数拠点に環境をつくれるので災害復旧やバックアップが可能
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また、幅広い分野での導入実績も魅力の1つです。具体的には、「株式会社メルカリ」や「国立遺伝学研究所」などで導入されており、適切なSLAが設定されたクラウドサービスをお探しの方に非常におすすめです。さくらのクラウド品質保証(SLA)は以下ページより詳細をご確認ください。
さくらのクラウドチーム
コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。