ネットワークスイッチは、現代のITインフラにおいて重要な役割を果たしています。本記事では、ネットワークスイッチの基本的な機能や役割、ルーターやハブとの違いについてくわしく解説します。ネットワーク機器の選定や構築に関する理解を深め、最適なネットワーク環境の構築にお役立てください。

ネットワークスイッチとは

ネットワークスイッチは、データ通信を効率化するためにネットワーク内の複数のデバイスを接続する機器です。送受信するデータパケットを適切に管理し、デバイス間の通信を可能にします。
ここでは、スイッチの具体的な役割を解説していきます。

データ転送におけるスイッチの役割

データ転送において、ネットワークスイッチは重要な役割を果たします。スイッチは、接続されたデバイスから送信されたデータパケットを受け取り、その宛先を特定します。

このとき、スイッチはMACアドレスと呼ばれるデバイス固有の識別情報を利用して、適切なポートへデータを転送します。この仕組みにより、宛先デバイス以外にはデータが送信されないため、効率的な通信が可能です。

さらに、スイッチはデバイスからのデータを受信するたびに、送信元のMACアドレスを学習し、内部に保存されるCAMテーブルを更新します。CAMテーブルを利用することで、スイッチはデータ転送先を迅速に判断し、ネットワーク全体の遅延を最小限に抑えられます。動的におこなわれるため、新しいデバイスが追加された場合でもスムーズに対応できます。

ネットワークスイッチのおもな機能

ネットワークスイッチは、ネットワーク管理を効率化するために多くの機能を備えています。

たとえば、ポート管理機能により、各ポートごとの通信量や接続状況を監視し、トラフィックを適切に制御します。特定のポートに過剰な負荷がかかった場合でも、ネットワーク全体のパフォーマンスを維持することが可能です。

またセキュリティ面においても、不正なデバイスからの接続を防ぐためのアクセス制御機能や、特定のMACアドレスを許可する機能が備わっており、ネットワークを安全に保つことができます。

さらに、VLAN機能を活用することで、1つの物理的なネットワークを複数の論理的なネットワークに分割できます。これにより、セキュリティの向上やトラフィックの分散が可能になり、効率的なネットワークの運用をおこなえます。

ネットワークスイッチが解決する課題

ネットワークスイッチは、以下のような課題を解決するために活用されます。

ネットワークの混雑やボトルネックの発生

ネットワーク上でデータ通信が集中すると、一定の経路やポイントに過剰な負荷がかかり、通信速度の低下や遅延が発生します。この課題において受信したデータパケットを解析し、宛先のデバイスにのみ転送するネットワークスイッチの仕組みを用いることで解決できます。

このプロセスは、不要なデータの送信を防ぎ、ネットワーク全体のトラフィックをスムーズに保つために効果的です。その結果、企業や施設などの大規模ネットワーク環境であっても、通信の安定性が向上します。

帯域幅の効率的な利用

トラフィック制御によってデータ優先順位を明確化します。ネットワーク全体で共有される帯域幅は限られているため、効率的な利用が大切です。ネットワークスイッチは、QoS(Quality of Service)機能を活用して、特定の通信を優先的に処理します。優先順位付けにより、重要な通信が遅延することなく、効率的に帯域幅を利用する環境が整うのです。

スケーラビリティの確保

企業の成長や事業拡大に伴い増大するネットワーク規模に対して、ネットワークスイッチを用いた拡張性の高い設計により、柔軟なネットワーク対応が可能になります。ポートやデバイスの追加に柔軟に対応できる設計機能があるため、スケーラビリティを確保できるのです。

ネットワークスイッチの種類と特徴

ネットワークスイッチの種類は、おもに以下の分類ができます。

  • 管理型スイッチと非管理型スイッチ
  • 第2層スイッチと第3層スイッチ

ここでは、それぞれのスイッチについて解説します。

管理型スイッチと非管理型スイッチ

管理型スイッチと非管理型スイッチは、おもに管理機能の有無によって分類されます。両者は基本的なデータ転送機能を共有していますが、管理機能の有無により、ネットワークの制御や監視能力に差異があります。

管理型スイッチの特徴

管理型スイッチは、ネットワーク管理者が設定や監視を行える高度な機能を備えています。具体的には、VLAN(仮想LAN)の設定、トラフィックの優先順位設定、ポートの制御、セキュリティ設定などが可能です。

これにより、ネットワークの柔軟な構築や効率的な運用が実現します。ただし、これらの機能を活用するためには、専門的な知識やスキルが求められます。

また、管理型スイッチでは、複数のスイッチを統合的に管理することが可能で、大規模ネットワークにおいても効率的な運用を実現できます。これにより、ネットワークの長期的な運用コストも削減できるため、ビジネスの成長を支える基盤としても有効です。

非管理型スイッチの特徴

非管理型スイッチは、接続するだけで基本的なデータ転送機能を提供します。設定や管理機能はほとんどなく、ユーザーが特別な設定をおこなう必要がありません。

そのため、小規模なネットワークや家庭内での利用に適しています。価格も比較的抑えられるため、導入が容易です。ただし、トラフィックの制御やセキュリティ設定などの高度な機能はありません。

第2層スイッチと第3層スイッチ

第2層スイッチ(L2スイッチ)と第3層スイッチ(L3スイッチ)は、OSI参照モデルにおける動作層の違いによって分類されます。両者はデータ転送をおこなう点で共通していますが、処理する情報や機能に違いがあります。

第2層スイッチの動作原理

第2層スイッチは、OSI参照モデルのデータリンク層(第2層)で動作し、MACアドレスを基にデータフレームを転送するのが特徴です。

各デバイスのMACアドレスを学習し、適切なポートにデータを送信することで、効率的な通信を実現します。おもに同一ネットワーク内でのデバイス間通信に使用され、VLANの設定などもできます。

第3層スイッチの動作原理

第3層スイッチは、データリンク層の機能に加えて、ネットワーク層(第3層)の機能も持ち合わせています。つまり、IPアドレスを基にルーティングをおこない、異なるネットワーク間のデータ転送が可能です。

これにより、ルーターの役割を一部担い、ネットワークの効率化や構成の柔軟性を高めます。大規模なネットワークや複雑なネットワーク構成において、L3スイッチは有用です。

ネットワークスイッチとルーターの違い

ネットワークスイッチとルーターは、どちらもネットワーク機器として重要な役割を果たしますが、用途と動作には明確な違いがあります。

ネットワークスイッチは、おもに同一ネットワーク内のデバイス間でデータを効率的に転送するための機器です。各デバイスのMACアドレスを学習して送信先を特定することで、不要なデータ転送を防ぎ、通信効率を向上させます。

一方、ルーターは異なるネットワーク間のデータ通信を管理し、IPアドレスを基に最適な経路を選択してデータを転送します。これにより、家庭内ネットワークとインターネットの接続や企業内の複数ネットワークセグメント間の通信が可能です。

さらに、ルーターはNAT(ネットワークアドレス変換)やファイアウォール機能を備えており、ネットワークのセキュリティ強化やアドレス資源の効率的な利用にも役立ちます。同一ネットワーク内でのデバイス間通信を効率化したい場合はスイッチを、異なるネットワーク間の通信やインターネット接続を管理したい場合はルーターを使用することで、それぞれの特性を最大限に活用したネットワーク環境を構築できます。

ネットワークスイッチとハブの違い

ネットワークスイッチとハブは、どちらも複数のデバイスを接続するためのネットワーク機器ですが、動作の仕組みや通信効率に大きな違いがあります。

ハブは、接続されたすべてのデバイスにデータを同時に送信する仕組みを持ち、特定の宛先を選ばないため、通信が効率的ではありません。その結果、データが不要なデバイスにも送られることで、ネットワークの混雑や衝突が発生しやすくなり、全体の通信速度が低下するというデメリットがあります。

一方、ネットワークスイッチは、受信したデータの宛先をMACアドレスで特定し、必要なデバイスにのみデータを転送します。この仕組みにより、不要な通信を排除し、ネットワーク全体の効率と通信速度を向上させることができます。

また、スイッチはトラフィックの優先順位を設定したり、セキュリティ機能を備えているなど、信頼性や管理性の面でもハブよりも優れています。

ネットワークスイッチの選定方法

ネットワークスイッチを選定する際には、ネットワークの速度やポート数、利用する環境の規模に応じた適切な製品を選ぶことが重要です。ここでは、選定方法について解説します。

適切な速度の選び方

ネットワークスイッチの速度は、ネットワーク全体の通信品質に大きく影響を与える要素です。まず、ファスト・イーサネット(100Mbps)は、小規模であまり負荷のかからないネットワークに適しています。

一方で、ギガビット・ネットワークスイッチ(1Gbps)は、一般的な企業ネットワークや家庭内での高画質動画のストリーミングなど、より高速な通信が求められる場面で利用されます。

さらに、10ギガビットイーサネット(10Gbps)やそれ以上の高速規格は、大規模なデータセンターやストレージネットワーク、AI処理など、非常に高い通信速度が必要とされる用途で活用されることが多いです。

選定の基準としては、現在のネットワーク利用状況だけでなく、将来的なトラフィック増加を見越して余裕のある速度を選ぶことが推奨されます。

適切なポート数の選び方

ポート数の選定は、現在の接続機器数を把握することから始めます。すべてのデバイスが適切に接続できるポート数を確保することはもちろん、将来的なデバイス追加や拡張性も見込んだ選定が欠かせません。

また、冗長構成を採用する場合、予備ポートを確保することで、故障時や一部ポートの利用停止時にも対応可能となります。さらに、スイッチをカスケード接続する計画がある場合、接続に必要なポート数を考慮することも忘れてはなりません。

ネットワーク規模に合わせた選び方

ネットワークスイッチは、規模や用途に応じて選ぶべきスペックが異なります。小規模ネットワークと大規模ネットワークでは、必要とされる機能や性能が大きく異なるため、それぞれの特徴を理解して選定を進めることが大切です。

小規模ネットワーク向けのスイッチ

小規模なネットワークでは、コストパフォーマンスが重要な選定基準です。このような環境においては、必要最低限のポート数と、簡易的な管理機能を備えたスイッチが適しています。

さらに拡張性を考慮して、若干余裕のあるポート数を選ぶことも推奨されます。互換性の観点から、将来的に異なるメーカーのデバイスが混在する可能性を見据えた選定が望ましいでしょう。

大規模ネットワーク向けのスイッチ

大規模なネットワークでは、エンタープライズ向けの高性能スイッチが必要です。これらのスイッチは、高い可用性を実現するための冗長構成や、複数のネットワークセグメントを効率的に管理できる高度な機能を備えています。

また、ネットワークの監視や運用を効率化するために、詳細なトラフィックモニタリング機能やログ管理機能が求められることが多いです。さらに、セキュリティ機能として、デバイスやユーザーを認証する仕組みや、不正アクセスを防止するファイアウォール機能などが搭載されている製品が適しています。

ネットワークスイッチに関するよくある質問

ここでは、ネットワークスイッチの導入メリットや技術的なアドレスの仕組みに関するよくある質問に回答します。

ネットワークスイッチの導入メリットは?

ネットワークスイッチの導入は、以下のようなメリットを提供します。

  • データ通信の効率化
  • ネットワークの安定性向上
  • セキュリティの強化
  • 拡張性の確保

データを必要な機器にのみ転送することで、無駄な通信を減らしネットワークの効率を大幅に向上させます。これにより、データの転送速度が最適化され、安定した通信が確保されるでしょう。

また、スイッチはVLAN機能を使用してネットワークを分割し、デバイスごとにアクセス制限を設定することで、セキュリティを強化します。さらに、ポート数が柔軟に選べるため、将来的なネットワークの拡張にも対応可能であり、中長期的なITインフラ投資の効率化にもつながります。

MACアドレスとIPアドレスの関係性は?

MACアドレスはデバイス固有の物理的なアドレスであり、イーサネットネットワーク内でデバイスを識別するために使用されます。一方、IPアドレスは論理的なアドレスであり、インターネット上でデバイスを識別するために用いられます。この2つのアドレスは「アドレス解決プロトコル(ARP)」によって対応付けがおこなわれ、MACアドレスを用いて物理的な通信を可能にしているのです。

スイッチは、MACアドレスを基にデバイスを識別し、データを適切なポートに転送します。IPアドレスはルーターや上位ネットワークでの通信に使用されるため、スイッチ自体はMACアドレスをおもに扱います。

MACアドレスとIPアドレスが適切に管理されることで、ネットワークは効率的かつ安定的に動作可能です。両者の役割を理解することで、ネットワークトラブルの原因を特定しやすくなるでしょう。

まとめ

本記事では、ネットワークスイッチの基本的な概念や役割、種類、選定方法、そしてほかのデバイスとの違いについてくわしく解説しました。スイッチはネットワークの中核を成す存在として、効率的なデータ転送を実現するだけでなく、セキュリティや拡張性の確保にも貢献します。

ネットワークスイッチの導入や選定においては、自身の環境や目的に最適なモデルを選ぶことが重要です。そのためには、ネットワーク規模や接続するデバイスの数、必要な機能を慎重に検討しなければなりません。

以下では、さくらインターネットのIaaS型クラウド「さくらのクラウド」が提供するスイッチソリューションについて紹介します。これらは信頼性が高く、多様なニーズに対応できる柔軟な選択肢を提供しているため、ネットワークスイッチの導入を考えている企業の方はぜひ参考にしてください。

さくらのクラウドのスイッチ

さくらのクラウドが提供するネットワークスイッチには「ルーター+スイッチ」と「スイッチ」の2種類があります。それぞれに独自の特徴があり、用途に応じた最適な選択が可能です。

また、L2(データリンク層)とL3(ネットワーク層)の役割に基づき、異なる機能を提供する点が特徴です。以下では、この2つのサービスの詳細と選定基準について解説します。

ルーター+スイッチ

ルーター+スイッチ」は、L3(ネットワーク層)での接続を提供するため、広域ネットワークやインターネット接続を必要とする環境に最適です。大容量高速通信を実現する設計がなされており、最大10Gbpsの帯域を利用できます。

また、グローバルIPアドレスをレンジで提供する機能があり、/28から/24までの範囲を選択可能です。これにより、企業が広域ネットワーク上で効率的かつ柔軟にネットワークを構築できます。

さらに、WAN(広域ネットワーク)での利用を想定した共有型構成も可能で、複数のデバイス間での効率的な通信が実現できます。共有型構成により、コストを抑えながらも、拡張性を備えたネットワーク運用が可能です。

とくに、グローバルIPアドレスを活用したインターネット接続は、スタティックルーティングなどの高度な設定も対応しており、大規模なネットワーク運用に最適です。

スイッチ

スイッチ」は、データリンク層(L2)での接続を提供し、プライベートネットワーク構築に特化したサービスです。インターネットに公開しない閉域網を簡単に構築でき、セキュリティを重視するシステムに適しています。また、VPCルーターとの連携により、クラウド上でセキュアなプライベートネットワークを展開可能です。

さらにゾーン間接続機能を活用することで、さくらのクラウド内の異なるゾーン間を閉域網で接続できます。これにより、企業内のネットワークを一元管理し、セキュリティや効率性を高められます。とくに、業務システムやデータベースをクローズド環境で運用するニーズに適しています。

「ルーター+スイッチ」と「スイッチ」の両方を活用することで、さらに高度なネットワーク構成を実現できます。具体的にはVPNを利用した安全な社内システム構成をご覧ください。

構成・執筆・編集

さくらのクラウドチーム

コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。

2024年12月26日公開