レガシーマイグレーションとは?失敗しないための3つの手法と成功事例

長年使用してきた基幹システム(レガシーシステム)の老朽化は、多くの企業が直面する課題です。本記事では、レガシーシステムを新しい技術基盤や設計思想に基づいて刷新する取り組み「レガシーマイグレーション」をテーマに、その必要性やメリット・デメリット、具体的な手法、成功事例までを網羅的に解説します。システム担当者やIT部門の意思決定者が押さえておくべき重要なポイントを、くわしく紹介します。
レガシーマイグレーションとは
レガシーマイグレーションとは、老朽化・複雑化した既存システム(レガシーシステム)を、新しい技術基盤や設計思想に基づいて刷新する取り組みです。
単なるシステムの入れ替えではなく、「ハードウェアの保守期限切れやソフトウェアのサポート終了への対応」「長年の改修によるシステムの複雑化・肥大化の解消」「新しいビジネスモデルや技術トレンドへの適応」「セキュリティリスクの低減、運用コストの最適化」などを目的としています。レガシーマイグレーションはビジネス環境の変化に対応し、競争力を高めるための重要な経営戦略の一環です。
レガシーシステムのリスク
レガシーシステムを放置すると、企業にとってさまざまなリスク要因となります。とくに、以下の5つのリスクが顕在化します。
コストの増大
レガシーシステムの維持には多額の費用がかかります。ハードウェアの保守費用の負担増、古いシステム維持に伴う人件費の増加、システムトラブル対応の長期化などにより、運用コストが膨らんでいきます。
セキュリティリスクの増大古いOSやミドルウェアではセキュリティパッチの提供が終了しているケースが多く、サイバー攻撃の標的になりやすくなります。また、最新のセキュリティ対策に対応できないことも多く、情報漏洩リスクが高まります。
人材確保の困難
レガシーシステムに精通した技術者は減少傾向にあり、人材の確保がますます難しくなっています。さらに、技術者の高齢化が進むことで、将来的にシステムの保守が困難になる可能性が高いでしょう。
技術的負債の蓄積
長年の改修によりシステムが複雑化・肥大化し、保守・運用が困難になります。また、ブラックボックス化による属人化リスクが高まり、新しい技術の導入が難しくなることで、ビジネス環境の変化への対応が遅れてしまいます。
ビジネス機会の損失
レガシーシステムでは、新しいビジネスモデルやサービスへの対応が難しくなり、競争力を失うリスクがあります。また、データ分析基盤との連携が困難なため、データドリブンな経営判断の遅れも懸念されます。
経済産業省の「DXレポート」では、レガシーシステムを放置すると、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると警告されています(「2025年の崖」)。こうしたリスクを回避し、企業の持続的な成長を実現するためにはDX推進が不可欠であり、そのための重要な取り組みの1つがレガシーマイグレーションです。
ビジネスにおけるメリット
レガシーマイグレーションは、企業の競争力強化に貢献します。クラウド、AIなどの最新技術を活用することで、新たなビジネスモデルやサービスを創出し、市場の変化に迅速に対応できるようになります。また、業務効率の向上も期待できるでしょう。システムの自動化による生産性の向上や、データの一元管理と活用による迅速な経営判断を支援します。
さらに、Webサイトやアプリの表示速度を改善することで顧客満足度を向上させたり、顧客データを活用してパーソナライズされたサービスを提供したりすることも可能です。加えて、システムの保守・運用コストやハードウェア費用の削減、セキュリティ対策の強化、コンプライアンス対応の容易化といった効果も期待できます。
技術面におけるメリット
技術面では、システムのスリム化・最適化ができます。長年の改修で複雑化したシステムを整理し、シンプルで保守しやすい構造に再構築できます。さらに、不要な機能や重複した機能を削除することで、システム全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
また、最新技術の導入が容易になり、開発・保守の効率を高められます。たとえば、最新の開発言語やフレームワーク、アーキテクチャの採用により、システムの安定性と拡張性が向上します。加えて、クラウドネイティブなアプリ開発を導入することで、柔軟かつ拡張性の高いシステムを構築できます。
さらに、「システムの可視化・標準化」による保守・運用性の向上や、「CI/CDや監視ツールの導入」による運用負荷の軽減も期待できます。そして、古い技術や設計を見直すことで技術的負債を解消し、将来的なシステム改修や機能追加をスムーズに進める環境を整えられます。
レガシーマイグレーションにおける課題
レガシーマイグレーションは多くのメリットをもたらしますが、その実現にはいくつかの課題も伴います。ここで、「コスト」「人材」「リスク」の3つの観点からおもな課題を解説します。
コスト
新しいシステムやインフラの導入、データ移行、アプリケーションの改修には、多額の初期投資が必要です。また、新旧システムの並行運用により一時的にコストが増大するほか、予期せぬ問題の発生による追加コストも考慮しなければなりません。
人材
「レガシーシステム」と「新しいシステム」の両方に精通した人材の確保は容易ではありません。レガシーマイグレーションは多くの時間と労力を要するプロジェクトであり、既存業務と並行して進める場合、社内リソースの不足が懸念されます。また、外部ベンダーの選定も重要ですが、適切なパートナーを見極めるには専門的な知識が必要です。
リスク
移行作業中にシステムが一時的に停止する可能性があるほか、データ移行の失敗によるデータ損失や不整合のリスクも懸念されます。また、新システム移行後にはバグやパフォーマンスの問題が発生する恐れがあるため、十分なテスト期間を確保し、問題発生時に迅速に対応できる体制を整えることが重要です。
レガシーマイグレーションの手法
レガシーマイグレーションには、代表的な手法が複数存在します。ここでは、主要な3つの手法である「リホスト」「リライト」「リビルド」について解説します。
リホスト
リホストとは、既存のアプリケーションやデータを変更せず、システム基盤(ハードウェア、OS、ミドルウェアなど)を新しい環境に移行する手法です。たとえば、オンプレミス環境で稼働しているシステムをクラウド(IaaS)に移行するケースが該当し、「リフト&シフト」とも呼ばれます。
適したケース
リホストは「システムの老朽化」がおもな課題で、アプリケーション自体は安定稼働している場合に適しています。とくに、短期間で移行を完了させたい場合や、コストを抑えたい場合に有効です。
メリット
リホストの最大のメリットは、移行期間が短く、コストも比較的低いことです。アプリケーションを改修せずに移行できるため、リスクを最小限に抑えながら、ハードウェアの保守期限切れなどの問題に迅速に対応できます。
デメリット
一方で、リホストではアプリケーションの根本的な問題(技術的負債やブラックボックス化など)は解決されません。また、新しい技術のメリット(クラウドネイティブな機能など)を十分に活かせず、将来的な拡張性や柔軟性に制約がある点にも注意が必要です。
リライト
リライトとは、既存のアプリケーションの機能や仕様を維持しながら、プログラミング言語やフレームワークを最新のものに書き換える手法です。たとえば、COBOLで書かれたプログラムをJavaに書き換えるケースが該当します。
適したケース
リライトはアプリケーションの老朽化が進み、保守や運用が困難になっている場合に適しています。また、既存の機能を維持しつつ、新しい技術のメリット(パフォーマンス向上、セキュリティ強化など)を活用したい場合や、将来的な機能拡張に備えたい場合にも有効です。
メリット
リライトの最大のメリットは、技術的負債を解消し、システムの保守性と運用性を向上できることです。また、新しい技術を取り入れることでパフォーマンスの向上やセキュリティ強化が期待でき、リビルドと比較してコストとリスクを抑えられる点も魅力です。
デメリット
一方で、リライトはリホストよりも移行期間が長く、コストも高くなる傾向にあります。また、新しいプログラミング言語やフレームワークを扱える技術者の確保が必要で、書き換えに伴うバグの発生リスクも考慮すべきでしょう。
リビルド
リビルドとは、既存のシステムを参考にしつつ、新しい技術基盤上でゼロから再構築する手法です。「リエンジニアリング」とも呼ばれます。
適したケース
リビルドは既存システムがビジネス要件に合わなくなっている場合や、新たなビジネスモデルやサービスに対応する必要がある場合に適しています。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、システムを抜本的に刷新したい場合にも有効です。
メリット
リビルドの最大のメリットは、ビジネス要件に最適なシステムを構築できることです。さらに、最新技術の活用により、パフォーマンス向上やセキュリティ強化が可能となり、将来的な拡張性や柔軟性も高まります。
デメリット
一方で、リビルドは移行期間がもっとも長く、コストも高額になる傾向にあります。また、高度な技術力を持つ人材の確保が必要で移行リスクも大きいため、慎重な計画と準備が必要です。
最適な手法の選択
これらの手法は、単独で実施するだけでなく、複数を組み合わせることも可能です。たとえば、一部のシステムをリホストし、重要なシステムはリライトまたはリビルドするなどの方法が考えられます。どの手法を選択するかは、企業の状況や目的、予算、リソースを総合的に考慮し、最適な方法を決定することが重要です。
レガシーマイグレーションの成功事例
レガシーマイグレーションは、具体的にどのような効果をもたらすのでしょうか。ここで、オンプレミス環境からクラウドへの移行によって課題を解決した、2つの企業の事例を紹介します。
工場の基幹システムをクラウド化
三菱マテリアル株式会社の環境・エネルギー事業カンパニーでは、全国各地の家電リサイクル工場で操業管理システムを運用していました。しかし、各工場が独立したオンプレミス環境でシステムを管理していたため、「本社からリアルタイムでデータを参照できない」という課題を抱えていました。
そこで同社は、DX推進の一環としてレガシーマイグレーションを決断。さくらインターネットが提供する「さくらのクラウド」を活用してシステムをクラウド化し、各工場で個別に運用されていた操業管理システムをWebベースのシステムに改修、クラウド上に統合しました。この移行により、全国の工場のデータがクラウド上に集約され、本社からリアルタイムで参照できるようになりました。
また、各工場のサーバー管理者の負担が軽減され、トラブル時の現地対応も不要に。さらに、クラウドの柔軟なスケールアップ機能を活用することで、ビジネスの成長に応じたシステム拡張が可能となり、クラウド上に蓄積されたデータを経営分析やDX推進に活用できる基盤を確立しました。
クラウド化によりIoTサービスの遅延解消
株式会社アイエスイーは、農山漁村向け獣害対策IoTソリューション「まる三重ホカクン」を開発・提供しています。当初、このシステムは現場近くに設置されたオンプレミスのサーバーで運用されていましたが、アクセス集中時に処理が遅延するという問題を抱えていました。
そこで同社は、レガシーなオンプレミス環境からクラウドへの移行を決断。「さくらのクラウド」と「さくらのVPS」を活用し、システムを全面的にクラウド化しました。この移行により、アクセス集中時の遅延が解消され、システムが安定稼働する環境が実現できました。「さくらのクラウド」の明確な料金体系により、運用コストを正確に把握できるようになるなど、多くのメリットがありました。
同社はレガシーマイグレーションによって、安定したIoTサービスを継続提供できる基盤を確立しています。
まとめ
本記事では、レガシーマイグレーションの必要性、メリット・デメリット、手法、成功事例について解説しました。レガシーシステムを放置するリスクは大きく、「2025年の崖」問題も目前に迫っています。レガシーマイグレーションは、企業の持続的な成長に不可欠な取り組みといえるでしょう。
2社の事例が示すように、クラウドを活用したマイグレーションは、DXを推進する有効な手段となります。しかし、その実現には「コスト」「人材」「リスク」といった課題が伴うことも事実です。
さくらインターネットは、豊富な実績と高い技術力で、お客さまのレガシーマイグレーションを支援します。「さくらのクラウド」「さくらのVPS」などの高性能なサービスを活用することで、「システム移行のスムーズ化」「運用コストの最適化」「業務効率の向上」を実現できます。また、2018年の北海道胆振東部地震でも停止しなかった石狩データセンターや、ISMAP登録などの実績により、高いセキュリティ基準を備え安定した運用環境で、安心して移行を進められます。
移行計画の策定から運用までさくらインターネットの専門チームが伴走し、最適なソリューションをご提案します。レガシーマイグレーションをご検討の方は、ぜひご相談ください。
社内システムをオンプレミス環境からクラウドへの移行を考えている方へ

オンプレミス環境で社内システムを稼働している企業の方に向けて、クラウド(IaaS)への移行についてご紹介します。
さくらのクラウドチーム
コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。