近年、政府はガバメントクラウドの取り組みを本格化させています。ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備する政府共通のクラウド基盤のことを指し、コスト削減や業務効率化を図る取り組みです。

本記事では、ガバメントクラウドの概要や仕組み、セキュリティ要件、地方自治体にとってのメリットや課題などを解説します。これから本格的に始まるガバメントクラウドについて理解を深めることで、自治体の情報システム担当者や関連事業者の方々は、円滑な移行準備とメリットの最大化ができるでしょう。

ガバメントクラウドとは

ガバメントクラウドとは、政府共通のクラウド基盤のことで、各府省や自治体でも同様に利用できるよう検討が進められています。
各機関が個別に管理していたシステムを共通化することで、コスト削減やセキュリティ強化、業務の効率化などを図ることができます。政府の情報システム改革の一環として推進されています。

ガバメントクラウドの仕組み

ガバメントクラウドは、政府共通のクラウド基盤です。デジタル庁が指定するクラウド事業者とデジタル庁の間で直接契約を行い、ガバメントクラウドを利用する各省庁・自治体はデジタル庁から払い出された環境に対して初期設定を行っていきます。具体的には、デジタル庁から発行された管理者権限ユーザーで環境にログインし、初期セットアップを実施する流れになります。

ガバメントクラウドの導入により、政府機関は従来のオンプレミスシステムと比較してインフラコストを大幅に削減できるとともに、スケーラブルなリソース管理によりコスト最適化を実現できます。
さらに、システムの運用・保守も一元化されるため、管理工数の削減にもつながります。セキュリティ面でも、ガバナンス機能とテンプレートを用いることにより高度なセキュリティ対策が施されるため、安全性が高いのが特徴です。

いつから取り組みが開始されるか

ガバメントクラウドへの取り組みは、2021年6月に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。

政府は、2025年度末までに各府省のシステムをガバメントクラウドに移行することを目指しています。移行対象となるのは、予算要求前の事業レビューで対象となったシステムや、各府省で共通的に利用されるシステムなどです。

移行スケジュールは各府省で策定され、2023年度から順次移行が進められる予定です。ガバメントクラウドへの集約により、システムの効率化やコスト削減、セキュリティ向上などが期待されています。

システム標準化の対象業務

ガバメントクラウドへの移行によるシステム標準化の対象となる業務は、以下の20業務です。これらの業務は、地方自治体の基幹的な業務であり、全国の自治体で共通的に利用されるものです。ガバメントクラウドへの移行により、これらの業務システムが標準化され、効率的な運用と維持、管理が可能になります。

業務 内容
住民基本台帳・
戸籍関連
住民基本台帳 住民基本台帳に関する事務、外国人住民に係る住民票の記載や通知に関する事務
選挙人名簿管理 選挙人名簿、在外選挙人名簿に関する事務、在外投票人名簿の修正等に関する通知事務
国民年金 国民年金法に基づく被保険者の資格取得や喪失、年金給付、保険料の納付や免除に関する事務
戸籍 戸籍に関する事務、戸籍の記載、修正や消除に関する通知事務
戸籍の附票 戸籍の附票に関する事務
税金関連 固定資産税 固定資産税の賦課徴収に関する事務
個人住民税 個人の市町村民税(特別区民税を含む)の賦課徴収に関する事務
法人住民税 法人の市町村民税の賦課徴収に関する事務
軽自動車税 軽自動車税の賦課徴収に関する事務
子ども関連 子ども・子育て支援 子ども・子育て支援法による教育・保育給付や施設利用給付の支給に関する事務
就学 就学義務の猶予や免除、経済的理由による就学支援に関する事務
児童手当 児童手当法に基づく児童手当や特例給付の支給に関する事務
児童扶養手当 児童扶養手当の支給に関する事務
国民健康保険関連 国民健康保険 国民健康保険法に基づく被保険者の資格の取得や喪失、保険料の賦課及び徴収に関する事務
介護・福祉関連 障害者福祉 障害者福祉に関連する各種手帳の交付や福祉手当の支給に関する事務
後期高齢者医療 高齢者の医療の確保に関する法律による保険料の徴収や資格の取得・喪失に関する事務
介護保険 介護保険に関する事務
健康管理 健康増進法による健康教育、健康診査、予防接種の実施に関する事務
生活保護関連 生活保護 生活保護法に基づく保護の決定及び実施、就労自立給付金の支給に関する事務
その他 印鑑登録 印鑑登録に関する証明書の交付に関する事務

【参考】
総務省|地方公共団体のガバメントクラウド利用に関する検討状況
地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第二条第一項に規定する標準化対象事務を定める政令

自治体クラウドとの違い

ガバメントクラウドと自治体クラウドは、どちらも地方自治体の情報システムをクラウド化する取り組みですが、利用対象と目的が異なります。
ガバメントクラウドは国が運営し、各府省や独立行政法人などの中央官庁、全国の地方自治体の情報システムを対象としているのに対し、自治体クラウドは地方自治体が共同で運営し、各自治体の情報システムを集約・標準化することを目的としています。

利用対象者 目的
ガバメントクラウド 全国の自治体 20種の基幹業務の情報システムを集約、標準化
自治体クラウド 特定の自治体 複数の自治体でクラウドを活用し、情報システムを集約、標準化

ISMAPとの関係性

ISMAP(イスマップ)とは、「Information system Security Management and Assessment Program」の略称で、政府情報システムの調達に際し、クラウドサービスの積極利用を図るために策定された「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」です。

ガバメントクラウドで用いられるクラウドサービスは、ISMAPの制度に基づいて安全性や信頼性が評価されることが前提となります。

例えば、ISMAPで評価された「さくらのクラウド」を利用する場合、各府省はクラウドサービスのセキュリティ評価をする必要がなくなり、調達の効率化やコスト削減、セキュリティ水準の向上が期待できます。つまり、ISMAPはガバメントクラウドの基盤となる制度と言えます。

ISMAPについて詳しくはこちら

ガバメントクラウドのセキュリティ要件

ガバメントクラウドは国家レベルの重要なデータを扱うため、厳重なセキュリティ対策が必須です。アクセス管理、データの暗号化、物理的セキュリティ、定期的な監査といった措置を通じて、情報を保護します。地方自治体もこれらのセキュリティ要件を満たすことで、安全かつ効率的にガバメントクラウドを活用できます。具体的な要件は以下の通りです。

主な要件

  1. 不正アクセス防止やデータ暗号化などにおいて、最新かつ最高レベルの情報セキュリティが確保できること。
  2. クラウド事業者間でシステム移設を可能とするための技術仕様等が公開され、客観的に評価可能であること。
  3. システム開発フェーズから、運用、廃棄に至るまでのシステムライフサイクルを通じた費用が低廉であること。
  4. 契約から開発、運用、廃棄に至るまで国によってしっかりと統制ができること。
  5. データセンタの物理的所在地を日本国内とし、情報資産について、合意を得ない限り日本国外への持ち出しを行わないこと。
  6. 一切の紛争は、日本の裁判所が管轄するとともに、契約の解釈が日本法に基づくものであること。
  7. その他デジタル庁が求める技術仕様(別途ガバメントクラウドを提供するクラウド事業者の調達において提示)を全て満たすこと。

【引用】総務省|地方公共団体のガバメントクラウド利用に関する検討状況

クラウドセキュリティとの関係性

ガバメントクラウドのセキュリティ要件もクラウドセキュリティとの関係性はあります。不正アクセスや情報漏洩といったセキュリティリスクのリスクをもとに、クラウドセキュリティの概要や直面しうるリスク、そしてクラウドセキュリティを強化するための具体的な対策について詳しく解説していきます。

地方自治体がガバメントクラウドに移行するメリット

地方自治体がガバメントクラウドに移行するメリットとしては以下の4点が挙げられます。

  • サーバー・OS・アプリの利用コストを削減できる
  • 情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張が可能になる
  • 庁内外のデータ連携が容易になる
  • 最新のセキュリティ対策を導入できる

サーバー・OS・アプリの利用コストを削減できる

ガバメントクラウドを利用することで、物理サーバーの調達・設置が不要になり、その分の初期投資コストを大幅に削減できます。

さらに、クラウド上の仮想リソースを必要に応じて動的に割り当てられるため、余剰リソースを保有する必要がなくなり、運用コストの削減にもつながります。

また、業務の拡大や組織改編に伴うシステム規模の変更にも柔軟に対応できます。仮想リソースの追加・削除により、システムのアップグレードやダウングレードを容易に行えるため、こうした変更にかかる費用を抑えられます。

このように、クラウド環境の迅速性と柔軟性により、システムの効率的な運用が可能となり、余分な支出を抑えることができるのです。

情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張が可能になる

ガバメントクラウドの導入により、情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張が可能になります。クラウド上の仮想リソースを即時に利用できるため、システム構築が迅速化され、開発サイクルが加速するからです。

また、行政サービスは季節により需要の変動が激しいですが、需要に応じて瞬時にリソースを調整できる柔軟なスケーリングが可能となります。さらに、新規サービスの素早い立ち上げや既存サービスの迅速な改善が可能になり、市民のニーズの変化にも柔軟に対応できます。

行政のデジタル化が推進されることで、サービスの質が向上し、市民満足度の向上にも繋がるでしょう。

庁内外のデータ連携が容易になる

ガバメントクラウドは、各自治体の業務システムを標準化することで、庁内外のデータ連携を容易にします。これまでは各自治体がバラバラにシステムを構築していたため、データの形式や連携方法が統一されておらず、他部署や他自治体とのデータ連携に手間がかかっていました。

しかしガバメントクラウドでは、データの形式や連携方法が標準化されるため、簡単かつスピーディーにデータ連携ができるようになります。これにより、行政サービスの効率化や住民サービスの向上、また自治体間の広域連携などの促進が期待されています。

最新のセキュリティ対策を導入できる

ガバメントクラウドは、政府機関向けに高度なセキュリティ対策が施されたクラウドサービスです。クラウド事業者が管理するプラットフォームや物理設備等については、最新の脅威に対応するためのセキュリティパッチの適用やウイルス対策ソフトの更新をクラウド事業者の責任範囲で行うことで、各自治体が個別にセキュリティ対策を講じる必要がなくなります。

また、政府機関で求められる高いセキュリティ基準をクリアしたクラウドサービスを利用できるため、安全性の高いシステム環境を実現できます。結果として、外部からのサイバー攻撃やデータ漏洩のリスクを大幅に低減し、国民の個人情報をはじめとする重要データを安全に保護することが可能です。

ガバメントクラウド移行における課題

ガバメントクラウドの移行期間は2023年度から2025年度末を予定していますが、多くの公共機関が同時期に移行するため、ITリソースや自治体職員の逼迫が懸念されます。

リソースが不足すると、クラウドの運用が最適化されず、ランニングコストが増加する可能性もあります。さらに、クラウドコストの正当性の検証や、ステークホルダー間の調整コストも増大し、特にベンダー間の調整や最適化に向けた動きを自治体が主導する必要があるため、間接的なコストと業務負荷が一時的に増えるかもしれません。

ガバメントクラウドの利用料負担

ガバメントクラウドの利用料は、現在はデジタル庁が負担しています。当初、デジタル庁は2024年度以降、各自治体に対してガバメントクラウドの利用料負担を求める方針でしたが、その後、制度改正に伴い自治体の利用料負担開始時期が2025年度以降に延期されました。
利用料の具体的な金額や算定方法などの詳細は、今後デジタル庁から示される見通しです。

ガバメントクラウドの対象サービス

ガバメントクラウドの対象となるクラウドサービスは、年度ごとに新規募集が行われています。2024年4月時点では、外資系クラウドである「Amazon Web Services(AWS)」、「Microsoft Azure」、「Oracle Cloud Infrastructure」、「Google Cloud」4サービスに加え、国産クラウドであるさくらインターネットの「さくらのクラウド」がガバメントクラウドの対象となっております。

決定年度 サービス名
2023年11月決定 さくらのクラウド (※)条件付き
2022年10月決定 Amazon Web Services(AWS)
Google Cloud
Microsoft Azure
Oracle Cloud Infrastructure

【参考】デジタル庁|ガバメントクラウド

特に、さくらのクラウドは2025年度末までに全ての技術要件を達成することを前提として、2023年11月に条件付きでガバメントクラウドの対象サービスに決定しました。
「さくらのクラウド」では、日本国内の複数拠点に分散して環境を構築し、災害や障害に対するリスク回避やセキュリティ対策も万全です。また、わかりやすい料金体系でコストの見積もりがしやすいのも特徴です。
高性能な仮想サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラを即時に利用でき、柔軟にリソース追加や削減が可能です。

まとめ

ガバメントクラウドは、政府機関のシステムを共通化し、セキュリティを強化しつつコスト削減と業務効率化を図る取り組みです。
自治体にとっては、サーバーやOSの利用コストを抑えられるだけでなく、迅速なシステム構築や柔軟な拡張、他機関とのデータ連携が容易になるなど多くのメリットがあります。ただし、移行にあたっては既存システムとの互換性など課題もあるため、十分な検討と準備が必要でしょう。

さくらのクラウド」は、高いセキュリティ基準を満たしつつ、シンプルで使いやすいインターフェースが特徴です。ガバメントクラウドへの移行を検討する各府省・自治体にとって、「さくらのクラウド」は今後、最適な選択肢のひとつとなりえるでしょう。

ガバメントクラウドの相談窓口

「さくらのクラウド」は、2023年度にデジタル庁が募集した「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に認定されました。

  • 中央省庁または地方自治体でのクラウドの普及に向け、導入を検討している公共機関の方
  • 私たちと共に中央省庁および地方自治体に向けて新たな価値を提供したい企業の方

このような方は問い合わせ窓口より、まずは気軽にご相談ください。ガバメントクラウドの普及に向けた取り組みを推進しようとお考えの企業様のお手伝い・ご支援をさせていただきたく考えています。

※ 2025年度末までに技術要件を満たすことを前提とした条件付き

ガバメントクラウドを詳しく知りたい方へ

日本政府が進めている肝いりプロジェクト「ガバメントクラウド」。その戦略を成功に導くために必要な、「本当の意味でのクラウドサービス活用」を実現するにはどうすればいいのか。国内クラウドベンダーの経営視点で考えます。

構成・執筆・編集

さくらのクラウドチーム

コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。

2024年8月公開