国内外に幅広くユーザーを持つWebサービスや企業システムにおいて、単一データセンターでの負荷分散では、パフォーマンスの限界や可用性の課題を感じる企業は少なくありません。とくに、トラフィック増加や複数拠点でのサービス展開により、従来の負荷分散技術では対応が難しい場合もあるでしょう。こうした課題を解決する技術として注目されているのが、GSLB(広域負荷分散 : Global Server Load Balancing)です。
本記事では、GSLBの基礎知識からメリット、導入方法までわかりやすく解説します。

GSLBとは

GSLB(広域負荷分散:Global Server Load Balancing)は、地理的に分散した複数のデータセンターやサーバー間でトラフィックを分散し、最適なサーバーにユーザーを誘導するDNSベースの負荷分散技術です。

地理的な制約や災害リスクなど、従来の単一拠点での負荷分散では対応困難だった課題を解決する技術として重要な役割を果たしています。

負荷分散について詳しくは以下の記事をご覧ください。

GSLBのおもな特徴

GSLBには、地理的分散やサービス継続性の課題を解決するため、次のような特徴があります。

  • DNSベースの制御:DNSクエリに対する応答を動的に変更することで、ユーザーを適切なサーバーに誘導します。
  • 複数リージョン間での負荷分散:地理的に分散した複数のデータセンターやリージョン間でトラフィックを効率的に分散し、1か所に負荷が集中することを防ぎます。
  • リアルタイム監視:24時間365日、各サーバーやネットワークの状態を自動監視し、障害発生時には瞬時に正常なサーバーへ切り替えます。

従来のロードバランサとの違い

従来のロードバランサは、データセンター内の複数サーバーにアクセスを振り分ける役割を担います。一方、GSLBは、複数のリージョンやデータセンターに配置されたサーバー間でトラフィックを分散し、各拠点の稼働状況をもとに最適なデータセンターを選択してトラフィック制御をおこないます。従来のロードバランサとは異なり、GSLBは地理的に分散した環境での大局的な負荷分散が可能となります。

ロードバランサについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

GSLBの仕組み

GSLBがどのようにユーザーを最適なサーバーに誘導するのか、実際の動作プロセスを3ステップで解説します。

GSLBの仕組み

1. 問い合わせ : DNSクエリの送信

ユーザーが「www.example.jp」にアクセスしようとすると、まずDNSサーバーに対して名前解決の問い合わせがおこなわれます。

2. 応答 : GSLB による最適サーバーの選択

DNSサーバーはGSLBシステムに問い合わせを転送します。GSLBは、各データセンターやリージョンの稼働状況を分析し、複数の候補IPアドレスの中から利用可能なものを選択します。上の図では、yyy.yyy.yyy.yyyのサーバーが「DOWN」状態のため候補から除外されています。

3. 接続 : 最適サーバーへの接続

GSLBの判定結果に基づいて、ユーザーは最適なデータセンター(xxx.xxx.xxx.xxx または zzz.zzz.zzz.zzz)に自動的に接続されます。上の図では、xxx.xxx.xxx.xxxのサーバーが選択されて、接続されています。

この一連のプロセスは、わずか数秒以内に完了し、ユーザーは意識することなくつねに最適な環境でサービスを利用できます。また、リアルタイムでサーバーの状態を監視しているため、障害発生時には即座に健全なサーバーへ切り替えます。

GSLB導入のメリット

GSLBを導入することで、次のようなメリットが期待できます。

パフォーマンスの向上

GSLBは、複数のリージョンやデータセンターに分散配置されたサーバー間で負荷を分散することで、システム全体のパフォーマンス向上を実現します。

ひとつのリージョンにリソース不足が発生した場合でも、ほかのリージョンのサーバーリソースを活用することで、安定したサービス提供が可能になります。

可用性の向上

主要なデータセンターで障害が発生した場合でも、GSLBはトラフィックを自動的にほかの拠点へ切り替えることで、サービスを迅速に復旧させることができます。地震や火災などの自然災害、サイバー攻撃、突発的なアクセス集中などが発生した場合でも、複数拠点への負荷分散により事業継続性とサイバーレジリエンスを確保し、システム全体の安定性を高めることができます。

アクセス集中対策やサイバーレジリエンスについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

運用コストの最適化

GSLBを活用することで、地域や時間帯によるトラフィックの偏りを分散できます。これにより各データセンターのリソースを効率的に活用し、過剰なリソースの確保を避けながら、24時間体制での安定運用が可能になります。また、最適なネットワークパスを自動で選択することで、帯域幅の使用量を抑え、通信コストを削減できます。

トラフィック切り替えや監視業務の自動化により、運用担当者の負荷を軽減できるため、人的コストの削減にもつながるでしょう。

GSLBの導入方法

GSLBを導入するには、次の3つの方法があります。自社の状況に合わせて、適切なものを選びましょう。

クラウド事業者のGSLBサービスを利用する

クラウド事業者が提供するGSLBサービスの利用は、運用・保守を委託できるため非常に導入しやすい方法です。

専用ハードウェアの調達や設置が不要で、Webコンソールから簡単に設定でき、数分から数時間で運用開始できます。従量課金制や定額制といった柔軟な料金体系により、初期費用を抑えて迅速に導入したい企業に適した選択肢といえます。

ただし、細かなカスタマイズや高度な制御には制限がある場合があるため、導入前にサービス仕様を十分確認することが重要です。

DNSソフトウェアを利用する

既存DNSサーバーソフトウェアにGSLB機能を追加する方法もあります。オープンソースを活用することでライセンス費用を抑えながら、既存のDNSインフラに機能を追加できます。新たな設備投資を最小限にとどめられる一方、設定や運用には専門知識が必要です。コストを重視し、基本的なGSLB機能で十分な企業に向いています。

専用のロードバランサを活用する

専用のハードウェアアプライアンスやソフトウェアソリューションです。高いパフォーマンスと豊富な機能を備えており、詳細な制御やカスタマイズが可能で、大規模なエンタープライズ環境に適しています。オンプレミス環境での完全な制御が可能で、セキュリティ要件が厳しい企業や既存のネットワークインフラとの密接な統合が必要な場合に選択されます。ただし、初期投資が大きく、運用・保守に専門知識を要するため、導入前の十分な検討が重要です。

まとめ

システムの安定性と継続性を重視する現代のビジネス環境において、GSLBは多くの導入メリットをもたらす技術です。導入方法は、クラウド事業者が提供するサービスの利用、DNSソフトウェアの活用、専用ロードバランサの導入という3つの選択肢があります。それぞれの特徴を踏まえ、企業の規模や要件、予算に応じて選択することが重要です。

さくらのクラウドでは、リージョンでの構成に加え、専用サーバーやハウジングなどのサービス間にまたがったロードバランシング環境も構築可能です。GSLBの導入をご検討中の方、または現在のシステム構成において解決したい課題がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

さらに詳細を知りたい方は、以下で紹介する「さくらのクラウド」のGSLBや、関連製品をぜひご確認ください。

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