本記事では、サーバーやネットワークの効率的な運用を目指すうえで欠かせない「負荷分散」について、その基本的な仕組みや機能、種類、そして導入方法についてくわしく解説します。

Webサイト運営者やシステム管理者の方々にとって、負荷分散はサービスの安定性向上やトラフィック増加への柔軟な対応に役立つ重要な技術です。本記事を読むことで、負荷分散の基本から適切な導入方法までを理解し、自社システムの最適化に向けた具体的なアクションを検討できるようになるでしょう。

負荷分散とは

負荷分散とは、サーバーやネットワーク機器間で処理を分散し、全体的な負荷を均等にする仕組みです。システム全体の安定性が向上し、特定のサーバーが過負荷で停止するリスクを軽減します。

負荷分散の実現方法はさまざまで、専用の機器(ハードウェア)を用る方法、DNSサーバーの設定を活用する方法、ソフトウェアを導入する方法などがあります。どの方法を選ぶかは、システムの規模や要件に応じて異なりますが、いずれも処理効率を最適化し、高い可用性を確保するために不可欠な技術です。

負荷分散の重要性

現代のインターネットサービスでは、アクセス集中やトラフィック急増が頻繁に発生します。このような状況では、特定のサーバーが過剰な負荷を抱え、サービスの停止や応答速度の低下を招く可能性があります。そしてそれが、利用者の満足度や事業の信頼性の低下などにつながる恐れがあります。

一方で、負荷分散を適切に導入することで、処理を複数のサーバーに効率的に振り分け、サービスの安定性と信頼性を確保可能です。ECサイトやストリーミングサービスなどの高負荷環境下では、とくに重要性が際立ちます。

負荷分散(ロードバランサー)の仕組み

ロードバランサーは、クライアントからのリクエストを一元的に受け取り、複数のサーバーに振り分ける役割を担います。その際、ロードバランサーに設定されたIPアドレスがクライアントからのアクセス先として機能し、ロードバランサーはそのリクエストを適切なサーバーのIPアドレスに割りあてます。クライアント側では単一のアクセス先しか認識しない一方、サーバー間では負荷が均等化されるのです。

また、ロードバランサーには各サーバーの状態を監視する機能があり、問題があるサーバーへの振り分けを避けることで、サービスの継続性を確保します。このような仕組みが、サービス全体の可用性を高めるポイントです。

負荷分散(ロードバランサー)の機能

ロードバランサーは、ネットワーク内で複数のサーバー間におけるトラフィックや処理の負荷を均等に分配する役割を担います。主要な機能は、サービスの安定性と信頼性を確保するために欠かせないものばかりです。ここでは、ロードバランサーが提供する具体的な機能について解説します。

サイトの速度低下の防止

ロードバランサーは、複数のサーバーにアクセスを均等に振り分けることで、サイト全体の表示速度を維持します。突然のアクセス集中が発生した場合でも、特定のサーバーに負荷が集中することを防ぎます。結果として、利用者に快適な操作性を提供し、ビジネスにおいて重要なユーザー体験の向上を実現できるのです。

検索エンジン最適化(SEO)の観点からも、表示速度の維持は重要です。検索エンジンは表示が速いサイトを優先的に評価する傾向があるため、検索順位が向上する可能性があります。ロードバランサーの導入は、技術的要件を満たすだけでなく、ビジネスの競争力を高める手段ともいえるでしょう。

サーバー故障時の別サーバーへの切り替え

ロードバランサーには、サーバーを常時監視し、異常を検知した場合に即座に別の稼働中サーバーへトラフィックを切り替える機能があります。自動切り替えの仕組みにより、故障したサーバーへのリクエストが無駄になることを防ぎ、サービスを継続することができるのです。

たとえば、ECサイトや金融サービスでは、一瞬の停止でも顧客の信頼を損ない、売上に直結する可能性があります。このような場合に、ロードバランサーは不可欠です。サーバー故障時の迅速な対応は、サービス提供者としての信頼性を維持するための基盤ともいえるでしょう。

サーバーのメンテナンス

ロードバランサーを使用することで、サービスを停止させずにサーバーのメンテナンスを実施可能です。具体的には、メンテナンス対象のサーバーを一時的にトラフィックの振り分け対象から外し、メンテナンス終了後に再び復帰させる制御ができるのです。

これにより、サービスの稼働率をつねに高い状態で維持できます。また、サービス中断の影響を最小限に抑えられるため、顧客満足度の向上につながるでしょう。

負荷分散の方式の種類

負荷分散は、複数のサーバーにリクエストを適切に振り分けることで、システムの安定性と効率性を保つ重要な手法です。そのためには、さまざまな振り分け方式を理解し、用途に応じて適切な方式を選択することが求められます。ここでは、代表的な負荷分散方式と特徴についてくわしく解説します。

ラウンドロビン

ラウンドロビン方式は、リクエストをサーバーに順番に振り分けるシンプルな方法です。最大のメリットは、設定が容易であることです。全サーバーが均等にリクエストを処理するため、過剰な負荷が特定のサーバーに集中するのを防ぎます。

一方で、サーバーの性能差や負荷状況を考慮しないため、サーバーごとに処理速度や能力が異なる場合には不均衡が生じる可能性があります。このため、ラウンドロビン方式は、同等の性能を持つサーバーが配置されている環境での利用に適しています。

ランダム

ランダム方式とは、乱数を利用してリクエストをサーバーに振り分ける手法です。メリットは、設定が簡単であり、振り分け方に偏りが少ない点です。ランダム方式は、サーバーごとの負荷や能力がほぼ均一である環境で効果的でしょう。

しかし、特定のサーバーが偶然に多くのリクエストを受ける可能性もあるため、完全な均等性を保証するものではありません。そのため、ランダム方式は、軽負荷な環境や小規模なシステムでの使用に適しています。

送信元IPアドレス

送信元IPアドレス方式とは、クライアントのIPアドレスに基づいて振り分け先を決定する方法です。同じクライアントからのリクエストが一貫して同じサーバーに送られるため、セッションを維持しやすいことが利点です。オンラインショッピングサイトや、セッション依存のアプリケーションで効果を発揮します。

一方、クライアントのIPアドレスに依存するため、負荷の均等化が保証されない場合があります。また、大量のクライアントが特定のサーバーに集中する可能性も考慮しなければなりません。採用する際は、サーバーの性能とクライアント分布を十分に分析する必要があります。

サーバー負荷連動

サーバー負荷連動方式は、サーバーの現在の負荷状況をリアルタイムで監視し、もっとも余力のあるサーバーにリクエストを振り分ける手法です。サーバーリソースを最大限に活用し、全体的な処理能力を向上させることが可能です。

しかし、負荷状況を把握するための監視システムが必要であり、設定や運用が複雑になる場合があります。また、負荷の変動が激しい環境では、監視データの精度が結果に影響を与えるため、注意が必要です。

重み付け

重み付け方式は、各サーバーの性能や処理能力に応じて、リクエストの振り分け比率を設定する手法です。高性能なサーバーにより多くのリクエストを振り分けることが可能になるため、システム全体の効率性が向上します。

さらに、重み付け方式とほかの振り分け方式を組み合わせて利用することで、柔軟性を高められるでしょう。たとえば、ラウンドロビン方式に重み付け方式を加えることで、サーバーの性能差を考慮した効率的な負荷分散を実現できます。ただし、適切な重み設定にはサーバー性能の詳細な把握が必要です。

最小コネクション数

最小コネクション数方式は、複数のサーバーに負荷を分散させる際、接続数(コネクション数)が最も少ないサーバーに優先的にリクエストを振り分けるアルゴリズムのことです。

各サーバーの処理能力を最大限に引き出し、システム全体の処理能力を向上させるとともに、特定のサーバーに過度の負荷がかかることを防ぎ、システムの安定性を高めます。また、1つのサーバーに障害が発生した場合でも、ほかのサーバーに負荷が分散されるため、システム全体が停止するリスクを軽減します。

さくらのクラウドの「エンハンスドロードバランサ」でも振り分けアルゴリズムで「least connection(最小コネクション)」を採用しています。

【参考】さくらのクラウド(エンハンスドロードバランサ)

負荷分散の手法の種類

負荷分散を効果的に実現するためには、適切な手法を選択することが重要です。それぞれの手法には特有の特徴があり、システム構成や要件に応じた最適な選択が求められます。以下では、代表的な負荷分散手法を解説します。

DNSラウンドロビン

DNSラウンドロビンは、DNSサーバーを活用して負荷分散をおこなうシンプルな方法です。同じドメイン名に複数のIPアドレスを割りあて、クライアントが名前解決をおこなう際にそれらのIPアドレスを順番に返します。そのため、複数のサーバーへリクエストを分散させることが可能なのです。

利点は、導入が容易で追加の負荷分散装置を必要としない点です。しかし、DNSキャッシュの存在により、リクエストが特定のサーバーに偏る可能性があります。また、サーバーの稼働状況をリアルタイムで反映する機能がないため、故障時の自動切り替えには限界があります。

プロキシ

プロキシサーバーを利用した負荷分散は、クライアントとサーバーの間にプロキシサーバーを配置し、リクエストを適切に分散させる仕組みです。プロキシサーバーは、リクエストを受け取ると内部で最適なサーバーを選択してリクエストを転送します。

接続の一元管理が可能であり、クライアントのセッションを維持しやすいことがメリットです。とくに、SSL通信の終端処理をおこなう際に有効です。一方で、プロキシサーバー自体がボトルネックになる可能性があるため、高負荷時には性能要件を満たすプロキシサーバーが欠かせません。

アドレス変換(NAT)

NAT(Network Address Translation)を利用した負荷分散では、ロードバランサーがクライアントからのリクエストの宛先アドレスを変更し、適切なサーバーに転送します。この方法により、内部サーバーのIPアドレスを隠蔽しつつ、リクエストの分散が可能です。

NAT方式の特徴は、TCPやUDPなど、幅広いプロトコルに対応できる点です。また、クライアントから見た接続先IPアドレスが統一されるため、セキュリティの向上にもつながります。ただし、すべてのトラフィックがロードバランサーを通過するため、ロードバランサーの性能がシステム全体のボトルネックになる可能性があるでしょう。

ダイレクトルーティング

ダイレクトルーティング方式では、ロードバランサーがクライアントからのリクエストを受信し、MACアドレスを変更して適切なサーバーに直接転送します。これにより、リクエストの振り分けが効率的におこなわれます。

この手法のメリットは、ロードバランサーの処理負荷が軽減される点です。ロードバランサーがリクエストのルーティングのみをおこない、レスポンスはサーバーからクライアントに直接返されるため、通信効率が向上します。

ただし、すべてのサーバーがロードバランサーと同じネットワーク内にある必要があり、ネットワーク構成に制約が生じる場合があるでしょう。

トンネル

トンネル方式では、IPトンネリング技術を活用してリクエストを適切なサーバーに転送します。この手法は、ネットワークセグメントを超えた負荷分散が可能であり、異なる場所にあるサーバー間での負荷分散を実現します。

トンネル方式の最大の利点は、地理的に分散したサーバー間で負荷分散ができる点です。これにより、複数のデータセンターを利用する場合にも対応できます。ただし、トンネル構築には複雑な設定が必要であり、追加の管理コストが発生する点に注意が必要です。

さくらのクラウドの負荷分散製品

さくらのクラウドは、多様なシステム要件に対応する負荷分散ソリューションを提供しています。以下に挙げる各製品は、可用性、セキュリティ、運用効率を高めるための多彩な機能を備えています。それぞれの特徴を理解し、最適な選択肢をみつけましょう。

エンハンスドロードバランサ(プロキシ型ロードバランサ)

エンハンスドロードバランサは、高機能なプロキシ型ロードバランサーで、従来型製品と比較して柔軟性とセキュリティ性能に優れています。複数リージョン間の負荷分散が可能で、障害時の切り替えやトラフィックの効率的な分配を実現します。また、SSLオフロード機能により暗号化通信の負荷を軽減し、簡単にSSL化を進められる点も特長です。

活用シーン

  • 複数の地域をまたぐサービス運用
  • 急激なアクセス増加への対応
  • セキュリティ要件が高いWebアプリケーション

ロードバランサ

さくらのクラウドのロードバランサは、シンプルかつ迅速に導入できる構成を特徴としています。基本的な負荷分散機能に加え、複数のプランや冗長構成のオプションが提供されており、中小規模から大規模システムまで対応可能です。

活用シーン

  • 初期費用を抑えたテスト環境の構築
  • システムの高可用性を確保したい場合
  • 障害時のスムーズなサービス継続

GSLB(広域負荷分散)

GSLB(広域負荷分散)は、複数ロケーション間でのトラフィック分散を可能にするソリューションです。低コストでディザスタリカバリ対策を実現できる点が特長で、東京と石狩リージョンをまたぐサービス設計にも対応します。

活用シーン

  • 複数リージョン間の冗長構成
  • 障害発生時の自動切り替え
  • グローバル展開しているアプリケーション

Netwiser 関連製品

Netwiser 関連製品は、負荷分散に加えて、SSLアクセラレーション、WAF、ファイアウォールなどの多機能を1つの製品で実現します。日本国内で開発されており、日本語によるサポートや構成例が充実しているため、運用負担を軽減しつつ高いセキュリティ基準を満たせます。

活用シーン

  • 高度なセキュリティを求めるシステム
  • 帯域フリーのライセンス管理をしたい場合
  • 集中管理で運用コストを抑えたい場合

さくらのクラウドの負荷分散製品の導入事例

さくらのクラウドは、多様な業界の課題解決に貢献する負荷分散製品を提供しています。以下に紹介する事例では、企業ごとに異なるニーズに対応し、コスト削減や運用の効率化、システムの安定性向上を実現しました。それぞれの事例を通じて、さくらのクラウドがどのように活用されているのかをみていきます。

スパイラル株式会社 VOTE FORカンパニー

スパイラル株式会社 VOTE FORカンパニーは、自治体の広報紙を活用したプラットフォーム「マイ広報紙」を運営しています。

同社は以前、海外クラウドサーバーを利用していましたが、為替変動によるコストの不安定性やランニングコストの増加に悩まされていました。そこで、さくらのクラウドへの移行を決断し、円払いによるコスト安定性を確保するとともに、クラウド基盤の切り替えにより運用の効率化を図りました。

移行により、サービスのパフォーマンスを維持しつつ、コストを約32%削減することに成功。また、キャッシュヒット率の向上を通じて、ユーザー体験を改善し、サービスの安定性を確保しました。

パシフィックリプロサービス株式会社

パシフィックリプロサービス株式会社は、専用サーバーで施設維持管理を目的とした地図管理システムを運用するなかで、システム障害へのリスクや冗長化の難しさが課題となっていました。これを解決するためさくらのクラウドを採用、セキュリティ強化や冗長化構成の実現によって、システムの信頼性を大幅に向上させました。

また、クラウド環境への移行プロセスでは、迅速かつ丁寧なサポートがスムーズな導入を支えたのです。これにより、地図管理システムの安定運用が可能となり、施設維持管理事業のさらなる拡大に向けた基盤を整えることができました。

株式会社スキット

株式会社スキットは、学校向けCMS「SchITCommons3」を通じて、膨大な学校サイトを効率的に管理しています。以前はオンプレミス環境で運用していましたが、初期費用や管理負担が大きく、コスト効率化の必要に迫られていました。

そこで、さくらのクラウドを導入し、初期投資を抑えながら柔軟なリソース管理を可能にしました。さらに、NFS(Network File System)の活用によりデータを一元管理し、運用負荷を大幅に削減したのです。

台風や入試シーズンなどアクセスが急増するタイミングでも、ロードバランサーによる負荷分散機能を活用することで、安定したサービス提供を実現しています。このように、クラウド環境への移行により、教育現場のIT運用を効率化するとともに、利用者の利便性を向上させています。

まとめ

負荷分散は、サービスの安定運用や効率向上に不可欠な技術です。さくらのクラウドは、転送量課金のない明確なコスト管理、柔軟なリソース運用、高いセキュリティで、多くの企業の課題を解決しています。負荷分散の導入を検討する際には、さくらのクラウドをぜひ活用して、システムの安定稼働を実現していきましょう。

構成・執筆・編集

さくらのクラウドチーム

コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。

2025年1月30日公開