クラウドサービスの導入を検討している企業にとって、「リージョン」の選択は避けて通れない要素です。しかし、適切なリージョン選択には、考慮すべき点が多く、判断が難しくなるケースも少なくありません。リージョン選択を軽視してしまうと、システムの性能低下、予期しないコスト増加、さらには法規制への抵触といった問題を引き起こす可能性があります。
本記事では、クラウド運用におけるリージョンの基礎知識から、適切な選択のポイント、実際の活用例まで詳しく解説します。

リージョンとは

リージョン(Region)とは、クラウド事業者がデータセンターやコンピューティングリソースを設置している地理的な領域を指します。主要なクラウドサービスでは、各地にリージョンを配置し、ユーザーが目的に応じて選択できる仕組みを提供しています。

クラウドサービスについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

リージョンの特徴

リージョンは以下のような特徴を持っています。

地理的な分散配置

各リージョンは数十~数百キロメートル以上離れた場所に設置されており、自然災害やインフラ障害などの影響を最小限に抑える設計となっています。

独立したインフラストラクチャ

各リージョンは独立したシステム基盤(ネットワーク、電源、冷却システムなど)を持ち、ほかのリージョンと物理的に分離されています。そのため、ひとつのリージョンで障害が発生しても、ほかのリージョンへの影響を防ぐことができます。

リージョン固有のサービス

リージョンごとに利用可能なサービスや機能が異なる場合があります。新しいサービスは特定リージョンから段階的に展開されることが多く、すべてのリージョンで同時に利用できるわけではありません。

リージョンとゾーンの違い

クラウドサービスでは、「ゾーン」という言葉もよく使われます。

ゾーンとは、リージョン内に設けられた独立した運用区画のことです。つまり、複数のゾーンが集まってひとつのリージョンを構成しています。クラウド事業者によっては「アベイラビリティゾーン」や「可用性ゾーン」と呼ぶこともあります。

ゾーンは物理的に独立していますが、同一リージョン内のゾーン同士は高速ネットワークで接続されており、ゾーン間でのデータ複製やリソース参照をおこなうようシステムを構成できます。このような冗長化構成をとることで、ひとつのゾーンで障害が発生しても、ほかのゾーンでシステムを継続運用できます。

リージョンの役割

クラウドサービスを利用する際に、複数のリージョンから選択できる理由は、リージョンが以下の役割を担っているためです。

可用性の向上

複数のリージョンを活用することで、システムの稼働率を大幅に向上させることが可能です。単一のデータセンターに依存していると、障害発生時にシステム全体が停止してしまいます。しかし、複数リージョンに分散配置することで、ひとつで問題が発生した場合でもほかで継続運用が可能です。

事業継続性の確保

地震や台風などの自然災害は広範囲に影響を及ぼしますが、地理的に離れたリージョンであれば同時に被災するリスクは軽減されます。このようにリージョンの活用は、BCP(事業継続計画)を強化でき、企業は予期しない事態が発生しても事業を継続できる体制を構築できます。

BCPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

リージョン選択の判断基準

リージョン選択時に考慮すべき主要な判断基準を6つのポイントから解説します。

通信速度

システムを利用するユーザーとデータセンター間の物理的な距離は、システムのパフォーマンスに直接影響します。そのため、まずユーザーの所在地を明確にしましょう。日本の企業が海外のリージョンを選択した場合、データの往復時間(レイテンシー)が増加し、アプリケーションの応答速度が低下する可能性があります。とくに、リアルタイム性が求められるシステムでは、この遅延が業務効率に大きく影響することがあります。

法律やルールへの対応

個人情報や機密データを取り扱う場合は、データの保管場所に関する法的制約を確認することが重要です。個人情報保護法や業界固有のガイドラインで、データの国外移転が制限されている場合があります。金融機関や医療機関ではとくに厳格な規制が適用されるため、法務部門と連携して適切な判断をおこないましょう。

加えて、リージョン選択は法的管轄にも影響を与えます。契約トラブルや法的紛争が発生した場合、どの国・地域の法律が適用され、どの裁判所で審理されるかは、データやサービスが配置されているリージョンによって決まることがあります。海外リージョンを選択する場合は、現地の法制度や紛争解決手続きについても事前に確認しておくことが重要です。

また、政府系システムではISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)に登録されたクラウドサービスが求められます。場合によっては、国産クラウドの利用が必要になるケースもあります。

ISMAPや国産クラウドについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

システムの安定性

システム停止時のビジネスへの影響度を評価し、自社に必要な安定性レベルを決定します。一般的な業務システムであれば単一リージョンで十分な場合もありますが、基幹システムや顧客向けサービスなど重要度の高いシステムでは、複数リージョンでの冗長化を検討する必要があります。クラウド事業者が提供するSLAも重要な判断材料となります。

SLAについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

運用コスト

リージョンによってクラウドサービスの料金体系が異なる場合があります。データ転送費用やネットワーク料金も、リージョン間の距離や通信経路によって変動するため、継続的にかかるコストも含めて比較検討が必要です。

提供サービス

使用予定のリージョンで必要なサービスが利用可能かどうかも重要なポイントです。新しいサービスや機能は特定のリージョンから段階的に展開されるため、事前にサービス提供範囲の確認が必要です。

将来の事業計画との整合性

現在のニーズだけでなく、数年後の事業計画も考慮してリージョンを選択しましょう。海外展開や新規事業の予定がある場合は、その時点でのマイグレーション(システム移行)コストを避けるため、初期段階から将来を見据えたリージョン選択をおこなうことが重要です。

マイグレーションについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

リージョンの活用例

リージョンの構成パターンには、単一リージョン構成、複数リージョンを組み合わせたマルチリージョン構成、オンプレミスとの併用によるハイブリッド構成に大別されます。それぞれの代表的な活用例を紹介します。

単一リージョン・マルチゾーン構成

もっとも一般的な構成で、ひとつのリージョン内の複数ゾーンにシステムを分散配置します。たとえば、国内ユーザー向けのサービスの場合、東京リージョン内の複数ゾーンにWebサーバーやデータベースを配置することで、局所的な障害に対する耐性を確保できます。コストを抑えながら一定の可用性を実現できるため、広く採用される構成です。

マルチリージョン構成

メインのリージョンで通常運用をおこない、別のリージョンに待機用のシステムを配置する構成です。金融機関や重要インフラ事業者など、高い可用性が求められる企業で採用されています。たとえば、東京リージョンでメイン運用をおこない、他リージョンに待機システムを配置することで、大規模災害時でもサービスを継続できます。

ハイブリッド構成

オンプレミス環境とクラウドリージョンを組み合わせた構成です。機密データや基幹システムは社内で管理し、Webサイトやバックアップデータはクラウドリージョンに配置します。段階的なクラウド移行を進める企業や、規制要件で一部データの社内保管が必要な企業に適しています。

オンプレミス環境について詳しくは以下の記事をご覧ください。

用途別のリージョン構成

用途別にリージョン構成を使い分けることもあります。たとえば、下記のとおりです。

開発・テスト環境

コストを重視し、料金の安いリージョンを選択することが多くあります。本番環境とは異なるリージョンを使用することで、開発作業が本番環境に影響を与えるリスクを回避できます。

バックアップ・アーカイブ

長期保存が目的のデータは、ストレージコストの安いリージョンを選択します。アクセス頻度が低いデータであれば、メインシステムから離れたリージョンに配置してもパフォーマンスへの影響は限定的です。

コンプライアンス対応

個人情報や機密データは、法規制に応じたリージョンに配置します。たとえば、EU市民の個人データはGDPR要件を満たすEU域内のリージョンに保管し、日本の個人情報は国内リージョンに配置するといった使い分けをおこないます。

まとめ

リージョンの選択は、システムの性能や可用性などさまざまな面を考慮する必要があります。日本企業の場合は、国内ユーザーへの快適なサービス提供と、個人情報保護法などの規制遵守が重要な検討要素となります。

国内リージョンを提供するクラウドサービスでは、データの海外流出リスクを抑制できるため、金融機関や医療機関などの規制の厳しい業界でも安心して利用できます。

さくらのクラウドなら、石狩・東京の2つの国内リージョンを活用でき、完全に国内完結したマルチリージョン構成を実現できます。データの国外流出を心配することなく、高い可用性と災害対策を両立したクラウド環境の構築に興味のある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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