近年、企業におけるクラウドサービスの導入が急速に進んでいます。また、働き方改革やコロナ禍を契機として、リモートワークも広く普及しました。これらの変化により、場所を問わず安全に業務を遂行できる環境の整備が求められていますが、アクセス時のセキュリティに不安を抱える企業も少なくありません。こうした背景から、安全なリモートアクセスを実現する手段として注目されているのが「VPN接続」です。
本記事では、クラウド環境におけるVPN接続の基本からほかの接続方法との違い、導入のメリット、手順、注意点までをわかりやすく解説します。

クラウドのVPN接続とは

VPN(Virtual Private Network)とは、公衆ネットワーク上に仮想的な専用回線を構築し、安全な通信を実現する技術です。

従来はオンプレミス環境での拠点間通信に用いられてきましたが、近年はクラウド環境での安全な接続手段として広く活用されています。

クラウドのVPN接続では、従来型と同様に通信内容を暗号化することで、マルチテナント環境やインターネット経由での接続においても、セキュアなアクセスを実現することが可能です。

よく似た言葉に「VPC(Virtual Private Cloud)」があります。VPCは、パブリッククラウド内に論理的に分離されたプライベート環境を構築する仕組みであり、VPNとは全く異なる技術です。

VPCについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

ほかの接続方法との違い

クラウドへの接続方法には、VPNのほかに、「インターネット経由の接続」「閉域網接続(専用線接続)」があります。それぞれの特徴と、VPN接続との違いを説明します。

インターネット経由の接続

もっとも手軽な方法で、普段使っているインターネット回線でそのままクラウドサービスにアクセスします。VPN接続と比べて導入コストが低く設定も簡単ですが、通信の暗号化がおこなわれないため、セキュリティリスクを伴います。機密性の低いデータや公開情報の利用に適しています。

閉域網接続(専用線接続)

通信事業者が提供する専用回線(AWS Direct Connect、Azure ExpressRouteなど)を使う方法です。VPN接続を上回る高いセキュリティと安定した通信品質を実現しますが、導入・運用コストが高額で、導入にも時間を要します。そのため、大企業の基幹システムや、システム停止が事業に重大な影響を与えるようなシステムで利用されています。

VPN接続は、両者の特長をあわせ持つバランスのとれた解決策として位置づけられます。とくにリモートワーク環境では、コストを抑えながら安全にクラウドサービスにアクセスできる手段として、幅広い企業で選択されています。

クラウドのVPN接続のメリット

クラウドのVPN接続には、次のようなメリットがあります。

コスト削減効果

VPN接続は、閉域網接続と比較して大幅なコスト削減が可能です。閉域網接続では回線使用料や機器レンタル費用などの固定費が継続的に発生しますが、VPN接続の場合は既存のインターネット回線を活用するため、追加の回線コストを抑制できます。

多くのクラウドプロバイダーがVPNサービスを提供しており、従量課金制や月額定額制で利用できるため、使用量に応じた柔軟な料金体系を選択できます。

強固なセキュリティの実現

VPN接続では、インターネットを経由する際にデータが暗号化されるため、データの盗聴や改ざんを防止できます。

従業員が自宅のWi-Fiや公共のインターネット回線を使用する場合でも、VPN接続により社内ネットワークと同等のセキュリティレベルを維持できます。在宅勤務や外出先など、場所を問わず安全に業務を継続できる点が大きなメリットです。

柔軟な運用とスケーラビリティ

VPN接続は、利用者数やトラフィック量の変動に応じて柔軟にスケールできます。リモートワークの従業員の増減や、季節的なビジネス変動に対して、迅速に対応することが可能です。また、地理的な制約も少なく、世界中のどこからでもセキュアにクラウドリソースにアクセスできるため、グローバルな事業展開やリモートワークにも適しています。

クラウドVPN接続の導入手順

クラウドVPNの導入は、計画的に進めることで、トラブルを回避し効果的な運用を実現できます。ここでは、すでにクラウドを利用している企業がVPN接続を導入する際の手順を中心に解説します。

1. 要件の整理

まずは、現在のクラウド利用状況とセキュリティ設定を詳細に点検します。利用中のクラウドサービス、接続している拠点、現在のアクセス方法を整理し、VPN接続が必要な範囲(特定のアプリケーションやデータベースなど)を特定しましょう。同時に、対象ユーザー数、セキュリティ要件、求められる通信速度、予算などの制約条件を明確にし、自社に最適なVPN方式を検討することが重要です。

なお、これからクラウド移行を検討する企業の場合は、現在のオンプレミス環境の構成把握と移行対象システムの特定から始め、移行後のアクセス要件を整理する必要があります。

2. ネットワーク構成の設計

要件に基づいて、クラウドとオンプレミス間のネットワーク構成を設計します。VPN接続により強化すべきセキュリティ領域を特定し、既存システムとの連携や業務への影響を最小限に抑えるネットワーク設計が重要です。

3. 設定作業

VPNサービスで実際の設定をおこないます。既存のクラウド環境に影響を与えないよう、慎重に接続設定を進め、オンプレミス側の機器やソフトウェアとの連携設定もあわせて実施します。セキュリティ設定や通信ルートの最適化をおこない、既存システムとの整合性を確認しながら慎重に作業を進めることが重要です。

4. テスト・検証

実際にVPN接続が確立できることを確認し、想定される通信量での性能テストを実施します。あわせて、不正なアクセスが適切にブロックされるかなど、セキュリティ機能が正常に動作することも検証します。この段階で問題を発見し解決しておくことで、本格運用時のトラブルを回避できます。

5. 本格運用

テストで問題がないことを確認したら、まず限定的なユーザーグループから運営を開始し、段階的に全体へ展開していきます。運用開始後は、VPN接続の状態や通信量を継続的に監視し、異常が発生した際の対応手順を、あらかじめ整備しておくことが重要です。

クラウドVPN導入時の注意点

クラウドVPNを成功させるためには、事前に把握しておくべき重要な注意点があります。これらに適切に対策することで、導入後のトラブルを回避することができます。

通信速度の制約

VPN接続では、暗号化処理により通常のインターネット接続と比較して速度が低下する場合があります。とくに大容量ファイルの転送や動画会議を頻繁におこなう環境では、業務効率への影響も考慮が必要です。

また、VPNの通信品質はインターネット回線の品質に依存します。導入前には、現在の通信量と必要な帯域幅を把握し、VPN接続時でも十分な性能が確保できるかを検討しましょう。重要な業務で利用する場合は、回線の冗長化も選択肢のひとつとなります。

コストの適切な管理

多くのクラウドプロバイダーでは、VPNの利用料金が接続時間やデータ転送量に応じた従量課金制となっており、想定以上の利用で予算を超過する可能性があります。利用量の上限設定やアラート機能を活用し、定期的にコストを監視することが重要です。また、ライセンス費用だけでなく、運用・保守にかかる人件費や機器更新費用なども含めて、総所有コストを算出しておきましょう。

サポート体制の確認

VPN接続で問題が発生した際、クラウドプロバイダー・ネットワーク機器ベンダー・インターネットプロバイダーの、どこが対応するかが曖昧になりがちです。そのため、事前に各事業者の責任範囲を明確にしておくことが重要です。あわせて、24時間365日対応の可否や日本語サポートの有無など、自社の業務に必要なサポートレベルを確認しておきましょう。

社内にネットワークとセキュリティの専門知識を持つ人材がいない場合は、充実したサポートを提供する外部パートナーを活用することも検討することをおすすめします。

まとめ

クラウドのVPN接続は、クラウド活用やリモートワークを進める企業にとって、コストとセキュリティを両立する効果的な選択肢となります。導入を成功させるためには、事前の要件定義から段階的な展開まで、計画的に進めることが不可欠です。とくに、通信速度への影響、コスト管理、サポート体制の3つの注意点を十分に検討し、自社の業務要件に最適な構成を選択することが重要です。

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