VPC(仮想プライベートクラウド)とは?メリットや構成をわかりやすく解説
クラウドコンピューティングの導入を検討するなかで、「パブリッククラウドのコスト効率は魅力的だけど、セキュリティが心配」「プライベートクラウドの安全性は確保できるけど、初期投資が高額すぎる」といった課題に直面していませんか?
VPC(仮想プライベートクラウド)は、こうした悩みを解決する画期的なクラウドソリューションです。パブリッククラウドの経済性とプライベートクラウドのセキュリティ性を兼ね備えた環境を実現することができます。
この記事では、VPCの基本的な概念から具体的な構成要素、導入のメリットまでを、実例を交えながらわかりやすく解説します。記事を読み終えた後には、自社のビジネスにVPCを導入すべきかどうかの判断材料を得ることができるでしょう。
VPC(仮想プライベートクラウド)とは
VPC(Virtual Private Cloud)は、パブリッククラウド内に構築される、論理的に分離されたプライベートなクラウドコンピューティング環境です。これは、パブリッククラウドの柔軟性とコスト効率を維持しながら、プライベートクラウドレベルのセキュリティと制御を実現する革新的なアプローチです。
主要なクラウドプロバイダーはそれぞれVPCサービスを提供しています。たとえば、Amazon Web Services(AWS)のAmazon VPC、Microsoft AzureのVirtual Network、Google CloudのVPC、IBM CloudのVPCなどが代表的です。これらのサービスは、企業が独自のプライベートネットワークをパブリッククラウド内に構築し、完全に制御できる環境を提供します。
VPCの一般的な用途には、Webアプリケーションのホスティング、クラウド移行、ハイブリッドクラウド戦略の実現などがあります。とくに、セキュアな環境でのアプリケーション開発・運用や、機密性の高いデータを扱うシステムの構築に適しています。とくに、以下のような企業はVPCの利用に向いているでしょう。
- プライベートクラウド環境を必要としながらも、パブリッククラウドのメリットも活用したい企業
- ヘルスケア、金融、官公庁など、高度なセキュリティとデータ保護が求められる業界の企業
- ビジネスの成長に応じて、柔軟にITリソースを拡張する必要がある企業
- コスト効率の高いクラウド環境を求める中小・大企業
VPN(仮想プライベートネットワーク)との違い
VPCとVPNは似て非なるテクノロジーです。VPNは、インターネット上に暗号化されたトンネルを作成し、離れた場所間でセキュアな通信を実現するネットワーク技術です。一方、VPCは、パブリッククラウド内に独立した仮想ネットワーク環境そのものを構築します。
おもな違いは以下の3点です。
VPN | VPC | |
---|---|---|
ネットワークアーキテクチャ | 既存のインターネットインフラを使用して暗号化通信を実現 | パブリッククラウド内に独立した仮想ネットワークを構築 |
用途 | おもにリモートアクセスや拠点間接続のセキュア化 | クラウドリソース全体の論理的分離と制御 |
セキュリティ実装 | 暗号化による通信経路の保護が中心 | ネットワークの論理的分離、アクセス制御、セキュリティグループなど、多層的な保護 |
ただし、VPCとVPNは相互に補完することができます。多くの企業は、VPC環境へのセキュアなアクセスを実現するために、VPNをVPCと組み合わせて利用しています。これにより、オンプレミス環境とVPC間のセキュアな接続や、リモートワーカーのVPCへの安全なアクセスが可能になります。
VPCの特徴
VPCは、パブリッククラウドとプライベートクラウドの長所を組み合わせた特徴的なクラウドコンピューティング環境です。そのおもな特徴は、高い敏捷性・拡張性、優れた可用性、強固なセキュリティ、そして費用対効果の高さにあります。これらの特徴により、VPCを利用することで以下のような利点を得ることができます。
- 敏捷性・拡張性が高い
- 可用性が高い
- セキュリティ性が高い
- 費用対効果が高い
それぞれの特徴について、くわしく見ていきましょう。
敏捷性・拡張性が高い
VPCの最も重要な特徴の1つが、高い敏捷性と拡張性です。従来のオンプレミス環境では、リソースの追加に物理的な機器の導入と設定が必要でしたが、VPCではソフトウェア的な制御で即座にリソースを拡張できます。具体的には、以下のような柔軟なリソース調整が可能です。
- 仮想サーバーのCPUやメモリの増強
- ストレージ容量の動的な拡張
- ネットワーク帯域幅の柔軟な調整
- 新規サービス用の環境を短時間で構築
たとえば、Eコマースサイトの季節的な需要増加に対応する場合、必要な期間だけリソースを増強し、需要が落ち着いたあとは元の構成に戻すことができます。この動的なスケーリング機能により、ビジネスの成長や変化に迅速に対応することが可能になります。
可用性が高い
VPCは、システムの安定稼働を実現するための高可用性アーキテクチャを備えています。これは、物理的に分散された複数のデータセンター(アベイラビリティゾーン)を活用し、システム全体の耐障害性を向上させることで、可用性を高めているのです。おもな仕組みには以下があります。
冗長構成
- 複数のアベイラビリティゾーンにまたがるシステム配置
- 重要なコンポーネントの多重化
- バックアップシステムの自動切り替え
フォールトトレラントなアーキテクチャ
- 単一障害点の排除
- 負荷分散による処理の分散
- 自動的な障害検知と回復
これらの機能により、たとえば1つのデータセンターで障害が発生しても、ほかのデータセンターで処理を継続することができ、サービスの中断を最小限に抑えることが可能です。
セキュリティ性が高い
VPCは、論理的な分離による強固なセキュリティを実現します。これは従来のデータセンターで実装されているセキュリティ機能を仮想的に再現し、さらにクラウドならではの高度な保護機能を追加することでセキュリティを確保しています。おもな仕組みは以下の通りです。
論理的分離による保護
- ほかのクラウドテナントからの完全な分離
- プライベートIPアドレス空間の独立した割り当て
- サブネットレベルでのネットワークセグメント化
アクセス制御の実装
- アクセス制御リスト(ACL)による通信制御
- セキュリティグループによるインスタンスレベルのファイアウォール
- IAM(Identity and Access Management)による権限管理
たとえば、Webアプリケーションを運用する場合、フロントエンド、バックエンド、データベースを別々のサブネットに配置し、それぞれに適切なアクセス制御を設定することで、多層的な防御を実現できます。
費用対効果が高い
VPCは、従来型のインフラストラクチャと比較して、大幅なコスト削減を実現します。初期投資の抑制と運用コストの最適化の両面からコスト削減が可能です。具体例は、以下のとおりです。
初期投資の削減
- 物理サーバーの購入不要
- データセンター設備の構築費用削減
- ネットワーク機器への投資抑制
運用コストの最適化
- 使用量に基づく従量課金
- 保守・運用人員の削減
- 電力・冷却コストの削減
- スケーリングによる無駄の排除
たとえば、年間のインフラ費用を比較した場合、従来型の専用データセンターと比べて30~50%のコスト削減が期待できるとされています。とくに、需要の変動が大きいビジネスでは、リソースの無駄を最小限に抑えられるため、より大きなコストメリットを得ることができます。
VPCを利用するメリット
VPCの導入は、企業のIT基盤に大きな変革をもたらします。ここまでで説明した特徴は、具体的なビジネス価値として企業に還元されます。とくに重要なメリットは、変化するビジネスニーズへ柔軟に対応できることと、顧客満足度を向上できることです。
これらのメリットは、DXを推進する企業にとって、とくに重要です。くわしく見ていきましょう。
変化するニーズに柔軟に対応できる
ビジネス環境のデジタル化が急速に進むなか、企業のITインフラには迅速な対応力が求められています。VPCは、このような変化するビジネスニーズに対して、優れた柔軟性を発揮します。従来のオンプレミス環境では、新しいサーバーの導入に数週間から数ヶ月かかることもめずらしくありませんでしたが、VPCではわずか数分で必要なリソースを確保することが可能です。
たとえば、新規プロジェクトの開始時には、開発環境と検証環境を迅速に構築し、プロジェクト終了時には不要になったリソースを速やかに解放することができます。また、季節的な需要変動がある場合も、ピーク時に合わせて大規模なインフラを用意する必要はなく、必要なときに必要な分だけリソースを追加することが可能です。
スケーリングの方法も非常に柔軟です。垂直スケーリング(スケールアップ/ダウン)では、個々のサーバーインスタンスのCPUやメモリ容量を変更できます。データベースサーバーのパフォーマンスが不足した場合、より高性能なインスタンスタイプに変更することで対応可能です。一方、水平スケーリング(スケールアウト/イン)では、サーバーインスタンスの数を増減できます。Webサーバーのような並列処理が可能なワークロードでは、負荷に応じてインスタンス数を自動的に調整するオートスケーリングを設定することも可能です。
顧客満足度を向上できる
デジタルサービスが企業の競争力を左右する現代において、システムの安定性と信頼性は顧客満足度に直結します。高度な可用性とセキュリティを兼ね備えているVPCを利用することで、高品質なサービス提供が可能です。
高可用性の面では、複数のアベイラビリティゾーンを活用した冗長構成により、システム全体の耐障害性を高めています。1つのデータセンターで障害が発生した場合でも、ほかのデータセンターが処理を継続することができます。また、負荷分散機能により、トラフィックを複数のサーバーに分散させることで、応答時間の安定化を実現しています。これにより、ユーザーは常に快適なサービスを利用できるのです。
セキュリティ面では、多層的な防御アーキテクチャにより、顧客データの保護を実現しています。ネットワークレベルでの分離に加え、暗号化、アクセス制御、監査ログの取得など、包括的なセキュリティ機能を有します。とくに金融機関や医療機関など、高度なセキュリティが求められる業界では、これらの機能が規制要件への対応を可能にし、顧客からの信頼獲得に貢献するでしょう。また、セキュリティインシデントが発生した際の影響範囲を最小限に抑え、迅速な回復を可能にすることで、サービスの継続性も確保しているのです。
VPCの構成要素
VPCの主要な構成要素は、コンピュート、ストレージ、ネットワーキングの3つです。これらの要素が緊密に連携することで、安全で柔軟な仮想プライベート環境を実現しています。
これから説明する各要素は、従来のデータセンターにおける物理的なインフラストラクチャを仮想化したものです。VPCでは、これらのリソースをソフトウェア的に制御することで、迅速な構築と柔軟な運用を可能にしています。
コンピュート
コンピュートリソースは、VPCの演算処理を担う中核的な要素です。物理的なサーバーを仮想化した仮想マシン(Virtual Machine, VM)として提供され、CPU、メモリ、ネットワークインターフェースなどのリソースが割り当てられています。
VSIはその用途に応じてさまざまな構成を選択できます。たとえば、Webサーバー用には比較的小規模なインスタンスを、データベースサーバー用には高性能なインスタンスを選択するといった具合です。また、需要の変動に応じてインスタンスのスペックを変更したり、数を増減させたりすることも可能です。
コンピュートリソースの管理は、直感的なコントロールパネルを通じておこなえます。システム管理者は、インスタンスの作成、停止、起動、構成変更などの操作を簡単に実行できます。さらに、オートスケーリング機能を設定することで、負荷に応じた自動的なリソース調整も可能です。
ストレージ
VPCのストレージは、データを永続的に保存するための仮想化されたディスク領域です。おもにブロックストレージとして提供され、VSIにアタッチして使用します。データベース、ファイルシステム、アプリケーションデータなど、さまざまな用途に対応できる柔軟性を備えています。
ブロックストレージの割り当ては、必要に応じて容量を指定しておこないます。初期設定後も、稼働中のシステムに影響を与えることなく容量を拡張することが可能です。また、スナップショットやバックアップ機能を活用することで、データの保護と復旧も容易です。
ストレージの性能特性は、用途に応じて選択することができます。高性能なSSD(Solid State Drive)ベースのストレージは、低レイテンシーが求められるデータベースワークロードに適しています。一方、従来型のHDD(Hard Disk Drive)ベースのストレージは、大容量のデータアーカイブに適しています。
ネットワーキング
VPCのネットワーキングは、仮想化されたネットワークインフラストラクチャを提供します。これにより、安全で柔軟なネットワーク環境を構築することができます。主要なネットワーク機能は以下の通りです。
ネットワーク機能 | 概要 |
---|---|
パブリックゲートウェイ | VPC環境とインターネットとの通信を可能にする接続点。インバウンド/アウトバウンドの通信制御が可能 |
ロードバランサー | 複数のVSI間でトラフィックを分散し、システムの可用性と性能を向上させる機能 |
ルーター | VPC内の異なるサブネット間やVPC外部との通信を制御する機能 |
直接/専用リンク | オンプレミス環境とVPCを専用線で接続し、セキュアで高速な通信を実現する機能 |
まとめ
VPC(仮想プライベートクラウド)は、パブリッククラウドの経済性とプライベートクラウドのセキュリティ性を兼ね備えた、現代のビジネスに最適なクラウドソリューションです。コンピュート、ストレージ、ネットワーキングの3つの主要構成要素が緊密に連携することで、安全で柔軟な仮想環境を実現します。
企業は、VPCを活用することで、急速に変化するビジネス環境に迅速に対応しながら、高度なセキュリティと可用性を確保することができます。また、従量課金制の採用により、コストの最適化も可能です。
クラウド化が進む現代のビジネス環境において、VPCは企業のDXを支える重要な基盤となっています。その特徴と利点を十分に理解し、自社のニーズに合わせて適切に活用することで、ビジネスの競争力強化につながることでしょう。
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