ランサムウェアや個人情報漏えいなどのセキュリティインシデントが、連日のように報道されています。こうした事例は、規模の大小を問わず発生しており、対応を誤ると企業経営に深刻な打撃を与える可能性があります。デジタル化の急速な進展とテレワークの定着により、もはやセキュリティインシデントは「他社の問題」ではなく、すべての企業が直面しうる現実的な脅威といえるでしょう。
本記事では、セキュリティインシデントの基本的な知識から事例、具体的な対策や発生時の対応手順まで、企業の担当者が知っておくべき情報を幅広く解説します。

セキュリティインシデントとは

セキュリティインシデントとは、組織の情報システムやデータに対する不正アクセス、データ漏えい、マルウェア感染、システム障害など、情報セキュリティに関連する問題や事故の総称です。これらは、企業の機密情報や個人情報の漏えい、システムの停止、業務の中断など、企業にとって重大な損失につながるおそれがあります。

セキュリティインシデントのなかでも、悪意ある外部攻撃はとくに深刻です。警察庁の報告によると、2024年にはランサムウェア被害や脆弱性探索行為の報告件数が前年より増加しており、フィッシング攻撃の報告件数も前年比44%増と大幅に増えています。

参考:サイバー空間をめぐる脅威の情勢等|警察庁Webサイト

こうした背景から、セキュリティを取り巻く環境は年々厳しさを増しており、すべての企業がセキュリティインシデントのリスクにさらされているといってもいいでしょう。

セキュリティインシデントが企業に与える影響

セキュリティインシデントが発生すると、企業は多方面にわたり大きな影響を受けることになります。経済的損失はとくに深刻で、復旧費用や機会損失により数億円にのぼるケースもあります。さらに、一度失った顧客や取引先からの信頼の回復には、長い時間を要するでしょう。

近年では、個人情報保護法やGDPRなどの規制強化も進んでおり、法的責任を問われるリスクも高まっています。このように、セキュリティインシデントは企業のIT部門のみにとどまらず、企業経営全体に直結する重要な課題として認識する必要があります。

セキュリティインシデントのおもな発生原因

企業で発生するセキュリティインシデントの原因は、大きく3つに分類することができます。

外的要因(攻撃者による意図的な攻撃)

とくに注目されるのが、外部からの意図的な攻撃による被害です。サイバー犯罪者や国家レベルの組織が、金銭的利益や機密情報の取得、業務妨害などを目的として企業のシステムに侵入を試みます。これらの攻撃は年々高度化しており、従来の対策では検知が困難な手法も登場しています。

内的要因(従業員のミス、内部不正)

セキュリティインシデントのなかには、従業員の行動に起因する場合もあります。悪意のない操作ミスから意図的な内部不正まで、その形態はさまざまです。

たとえば、フィッシングメールへの誤対応、USBメモリの紛失、アクセス権限の設定ミスなどが挙げられます。これらは悪意がないからこそ、防止することは簡単ではありません。一方、内部不正については、退職予定者や不満を抱える従業員による情報持ち出し、特権アカウントの悪用などのケースが報告されています。

環境要因(自然災害、システム障害)

地震や台風、火災などの自然災害によってデータセンターが被害を受けた場合、情報資産の損失や業務継続に深刻な影響が生じる可能性があります。

また、ハードウェアの故障、ソフトウェアのバグなども、情報の可用性を損ない、セキュリティインシデントとなるおそれがあります。

セキュリティインシデントの種類

企業が直面するセキュリティインシデントには、さまざまな種類があります。

マルウェア感染

マルウェア(悪意のあるソフトウェア)による感染は、最も一般的なセキュリティインシデントのひとつです。ウイルスやトロイの木馬、ワーム、スパイウェアなどさまざまな種類があり、システムの破壊、情報窃取、不正操作などの被害をもたらします。

なかでも、近年深刻なのがランサムウェアによる攻撃です。データを暗号化して身代金を要求するだけでなく、機密情報を窃取して公開すると脅迫する「二重脅迫」という手法もみられます。

不正アクセス

不正アクセスとは、外部の攻撃者や権限のない内部者が、企業のシステムやデータベースに不法に侵入する行為です。パスワードの盗用や脆弱性の悪用、内部関係者による不正な権限使用などが典型的な手口となります。不正アクセスが成功すると、機密情報の窃取やシステムの改ざん、さらなる攻撃の踏み台として利用される可能性があります。近年では、VPNの脆弱性やリモートワーク環境の設定不備を狙った攻撃も増加しています。

VPNについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

DoS・DDoS攻撃

サービス拒否攻撃(DoS攻撃)や分散サービス拒否攻撃(DDoS攻撃)は、大量のアクセスやデータを送りつけてサーバーやネットワークを過負荷状態にし、正常なサービス提供を妨害する攻撃手法です。ECサイトや金融機関など、サービス停止が直接的な損失につながる業界では、とくに深刻な脅威となっています。

アクセス集中について詳しくは以下の記事をご覧ください。

フィッシング攻撃

フィッシング攻撃は、偽のメールやサイトでパスワードなどの認証情報をだまし取る手口です。最近は、不特定多数ではなく特定の相手を狙う「スピアフィッシング」や、経営幹部を狙う「ホエーリング」など、より巧妙な手法が増えています。

記録媒体・情報端末の紛失・盗難

USBメモリ、ノートパソコン、スマートフォンなどの情報機器の紛失や盗難も深刻なセキュリティインシデントに発展する可能性があります。これらの機器に保存された顧客情報や機密データが第三者の手に渡り、悪用される可能性があります。

セキュリティインシデントの事例

セキュリティインシデントは、企業規模の大小を問わず、どの企業にも起こる可能性があります。ここでは、2つの事例を紹介します。

事例1:大手通信グループにおける個人情報漏えい

2023年10月、ある大手通信グループにおいて、元派遣社員が約928万件の顧客情報を9年以上にわたり不正に持ち出していたことが判明しました。

この社員はクラウド上のコールセンターシステムにアクセスできる立場にあり、社員が不正を継続できる環境が長年にわたって放置されていたことが問題視されました。社内調査では、技術的な対策や監視体制の不備に加え、セキュリティよりも業務の便宜を優先する組織風土が厳しく指摘され、グループ社長が引責辞任を表明する事態に発展しました。

事例2:クラウドサービスでのランサムウェア被害

ある健康支援サービス事業者では、2023年12月にランサムウェア攻撃による不正アクセスを受け、約1,000人分の個人情報が漏えいした可能性があると発表しました。

不正アクセスの原因は、過去に委託した開発会社が発行したアクセスキー(認証情報)の削除漏れでした。本来であれば委託終了時に削除すべきアクセスキーが外部に流出し、攻撃者がこれを悪用してシステムに侵入したとされています。

この被害を受けて、同社はアクセスキー管理の見直しや、個人情報の取り扱いルールの再整備といった再発防止策を講じるなど、対応に追われました。

セキュリティインシデントを防ぐための対策

セキュリティインシデントから企業を守るための対策を紹介します。

セキュリティツールの導入

まず基本となるのが、適切なセキュリティツールの導入です。企業規模や業種に応じて、複数のツールを組み合わせて利用することが重要です。代表的なツールには、以下のような種類があります。

  • ファイアウォール:外部からの不正アクセスを遮断
  • アンチウイルスソフト:マルウェアの検知・駆除
  • 脆弱性診断ツール:システムやアプリケーションに潜む脆弱性をチェック
  • IDS/IPS:ネットワークへの侵入を監視
  • EDR(Endpoint Detection and Response):端末単位で高度な脅威を検知
  • SIEM(Security Information and Event Management):ログ分析による統合監視
  • SOAR(Security Orchestration, Automation and Response):セキュリティ運用の自動化
  • WAF(Web Application Firewall):Webアプリケーションの保護

これらのツールは導入するだけでは効果を発揮せず、適切な設定・運用と最新の攻撃手法に対応するために定期的な見直しが不可欠です。専門的な知見が求められるため、信頼できるサービス・ベンダーを選びましょう。

脆弱性診断ツールについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

OS・ソフトウェアの更新体制の構築

システムの脆弱性を狙った攻撃を防ぐには、定期的なアップデートが欠かせません。OSやソフトウェアの更新プログラムを迅速に適用する体制を整える必要があります。

多くの企業では、更新作業による業務への影響を懸念して対応が後回しになりがちですが、これが大きなリスクとなります。重要度に応じて更新の優先順位を決め、テスト環境で十分に検証したうえで、本番環境に適用する体制を整備することが重要です。

セキュリティ研修の実施

従業員起点のインシデントの防止には、定期的なセキュリティ研修の実施が有効です。最新の攻撃手法や実際の事例を共有し、フィッシングメールの見分け方や安全なパスワード管理などの実践的な知識の習得を促進します。重要なのは、1回限りの研修ではなく、継続的な教育をおこなうことです。

アクセス管理の徹底

内部からの脅威や権限の悪用を防ぐには、適切なアクセス管理が必要です。「最小権限の原則」に基づき、各従業員には業務に必要な最小限の権限のみを付与します。とくに特権アカウントについては、権限の定期的な見直し、アクセスログの監視、多要素認証の導入などを組み合わせた厳重な管理が求められます。また、人事異動や退職時には、権限の変更・削除を迅速に実行することが重要です。

近年は、クラウドサービスやテレワークの普及により、従来の境界型セキュリティでは対応しきれない状況が増えています。こうした背景から、すべてのアクセスを疑い検証する「ゼロトラストセキュリティ」の手法も選択肢のひとつとして検討するとよいでしょう。

クラウドセキュリティ、ゼロトラストセキュリティについてくわしくはこちら

セキュリティインシデント発生時の対応手順

どれだけ対策を講じても、セキュリティインシデントの発生リスクをゼロにすることはできません。万が一インシデントが発生した際に、被害を最小限に抑え、迅速に復旧するための対応手順を解説します。

手順1:報告

インシデント発生時は、最初の数時間〜数日の対応がその後の影響の規模を大きく左右します。異常を発見した従業員がすぐに報告できるよう、連絡先や手順を周知しておきましょう。

報告を受けた担当者は、深刻度を判断し、必要に応じて経営層・関係部署・外部機関へ連携します。

初動では、詳細な原因調査の完了を待つよりも、判明した事実に基づいて迅速に報告し、被害拡大の防止を優先することが重要です。

手順2:被害拡大の防止

インシデントを確認したら、直ちに被害拡大を防ぐための措置を講じましょう。感染したシステムのネットワーク切断、関連システムの停止、アカウントの無効化などを迅速に実行します。

同時に、今後の調査や法的対応に備えて、証拠となるデータやログを保全することも重要です。証拠保全のために対応が遅れることがないよう、事前に優先順位を明確にしておく必要があります。

手順3:復旧作業

被害の拡大を防いだあとは、バックアップからのデータ復元、システムの再構築を段階的に実施します。同じ攻撃を受けないよう脆弱性の修正や追加対策も必要です。

復旧したシステムが安全に動作することを十分に確認したうえで、業務を再開します。

手順4:関係者への報告・対応

セキュリティインシデントが発生した際は、顧客、取引先、監督官庁などへの適切な対応が求められます。

情報開示では、調査中の不確実な情報や推測に基づく発表は避け、被害を受けた顧客への謝罪、補償措置、今後の対策についても明確に示さなければなりません。透明性を保ちながら、企業の信頼回復に努めることが長期的な視点では重要です。

手順5:事後検証と再発防止策

インシデント対応の完了後は、一連の対応を振り返り、改善点を洗い出すことが重要です。具体的には、インシデントの原因分析、対応手順の妥当性、組織体制の課題などを検証し、再発防止に向けた具体的な対策を検討します。

検証結果を踏まえて、セキュリティ対策の見直しや対応フローの改訂、従業員への教育・訓練の強化などを実施します。

まとめ

セキュリティインシデントは、もはや「他人事」ではありません。すべての企業が直面する可能性がある現実的な脅威として、企業規模に関わらず対策を講じることが急務となっています。重要なのは、技術的な対策だけでなく、従業員教育や組織体制の整備を含めた包括的な取り組みです。企業の貴重な資産と信頼を守るため、いますぐにでもセキュリティ対策を見直すことをおすすめします。

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