脆弱性診断(セキュリティ診断)とは?種類や実施の手順・ポイントを解説

近年、インターネットの普及と技術の高度化に伴い、サイバー攻撃による個人情報の漏えいや不正アクセスなどのセキュリティ事故が増加しています。こうした攻撃の多くは、システムの脆弱性を突いたもののため、日頃からのセキュリティ対策が欠かせません。本記事では、脆弱性診断(セキュリティ診断)の基礎知識から実施するメリット、実施手順、そして効果的におこなうポイントまで、幅広く解説します。
脆弱性診断(セキュリティ診断)とは
脆弱性診断(セキュリティ診断)とは、企業の情報システムに潜む弱点や問題点(脆弱性)を発見するためのセキュリティ対策を指します。OSやミドルウェア、Webアプリケーションなど、IT基盤全体を対象に、サイバー攻撃の標的となりうる欠陥を洗い出します。
診断では、発見した脆弱性の危険度を数値化し、攻撃された場合の影響度を評価します。
こうした診断を定期的に実施することで、サイバー攻撃のリスクを事前に把握し、被害を未然に防ぐ有効な対策となります。
脆弱性診断の重要性が高まる背景
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査(2023年度)によると、不正アクセス被害を受けた企業の半数近くが「脆弱性(セキュリティパッチの未適用など)を突かれた」と回答しています。この結果は、システムの脆弱性がサイバー攻撃の主要な侵入経路となっていることを示しています。
さらに深刻なのは、セキュリティ事故の影響が被害企業だけにとどまらない点です。多くのケースで取引先やサプライチェーン全体への波及が報告されており、一社の脆弱性が業界全体のリスクとなる構造が明らかになっています。
参考:「2024年度中小企業等実態調査結果」速報版を公開 | プレスリリース | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
こうした背景から、脆弱性診断は、IT部門の課題にとどまらず、企業全体のリスク管理に関わる経営課題として重要性を増しています。
こうした状況を受け、社内外を問わずすべてのアクセスを信頼せずつねに検証をおこなう「ゼロトラストセキュリティ」の考え方も注目されています。
ゼロトラストセキュリティについてくわしくは以下の記事をご覧ください。
脆弱性診断の種類と方法
効果的な脆弱性診断を実施するためには、対象システムに応じた適切な診断の種類や方法を選択することが重要です。
脆弱性診断の種類
脆弱性診断は、その対象によって大きく3つのタイプに分けられます。それぞれ異なる脆弱性を検出するため、包括的なセキュリティ対策には複数の診断を組み合わせることが重要です。以下、それぞれの特徴を解説します。
ネットワーク脆弱性診断
ネットワーク機器やサーバーなどのインフラを対象とし、不正侵入の可能性がある脆弱性を検出します。おもにポートスキャンやOSの脆弱性検査を実施し、外部からの侵入経路を特定します。近年増加するクラウド環境のセキュリティ設定も、重要な検証対象となります。
Webアプリケーション脆弱性診断
WebサイトやWebアプリケーションを対象に、SQLインジェクション(データベースへの不正操作)やクロスサイトスクリプティング(XSS:悪意あるスクリプトの埋め込み)など、Web特有の脆弱性を検出します。OWASP Top 10、OWASP ASVSなどの既知の脆弱性パターンに基づいて診断し、Webサービスの安全性を高めます。
データベース脆弱性診断
データベース自体のセキュリティを診断し、権限設定や認証方法、セキュリティパッチ(脆弱性修正プログラム)の適用状況などを確認します。情報漏えいリスクが高いデータベースの保護はとくに重要で、アクセス制御や暗号化状況も検証対象となります。
脆弱性診断の方法
脆弱性診断には、大きく分けて「ツールによる自動診断」と「手動診断」の2つの方法があります。
ツールによる自動診断
専用ツールを使って既知の脆弱性を効率的に検出する方法です。広範囲を短時間でチェックでき、定期的な診断に適しています。ただし、複雑なシステム構成については、ツールだけでは検出できない脆弱性も存在します。
手動診断
セキュリティの専門家が目視や独自の手法で調査します。自動では見つけにくい複雑な脆弱性や設定ミスなどにも対応可能です。専門性が高く時間とコストを要しますが、重要システムには不可欠な診断手法といえるでしょう。
脆弱性診断を実施するメリット
脆弱性診断を導入することで企業が得られるメリットは以下の通りです。
セキュリティインシデントの予防
脆弱性を事前に発見し、適切な対策を講じることで、情報漏えいやシステム停止といった深刻なセキュリティインシデントのリスクを大幅に低減できます。多くのサイバー攻撃は既知の脆弱性を標的としているため、診断によってその侵入経路を事前に封じることが最も効果的な防御策となります。
また、被害発生後の対応に比べて、時間的・金銭的なコストを抑えられます。セキュリティインシデントが発生すると、システム復旧、影響調査、顧客対応、法的手続きなど、多大なリソースが必要となるためです。
法令遵守・コンプライアンスへの対応
個人情報保護法をはじめ、PCI DSS(クレジットカード情報の保護基準)やその他の業界別ガイドラインへの対応が求められるなか、脆弱性診断はその実施証跡となります。万が一の監査や事故発生時においても、「適切なセキュリティ対策を継続的に実施していた」ことを示す客観的なエビデンスとして、監査や事故発生時の重要な資料となります。
企業価値の向上
堅実なセキュリティ対策の実施は、顧客や取引先からの信頼獲得につながり、企業価値を高めます。とくに個人情報や機密データを扱う企業では、脆弱性診断の定期実施が新規取引の前提条件となることも珍しくありません。セキュリティ体制の整備が市場での競争力を左右する重要な要素になっています。
脆弱性診断の実施手順
効果的な脆弱性診断は、以下の4ステップで進めます。
計画立案
まずは診断の目的と対象範囲を明確にします。どのシステム・アプリケーションを対象にするのか、どのような手法で診断をおこなうのかを定め、スケジュールや役割分担も整理します。また、診断による本番環境への影響を最小限に抑えるため、実施時間帯やバックアップ体制なども事前に検討し、関係者への周知を徹底することが重要です。
診断の実行
計画に基づき、専用の脆弱性診断ツールや手動による検査にて診断を実施します。自動スキャンによる広範なチェックに加え、ツールでは検出が難しい論理的な脆弱性や設定ミスなどについては、専門知識を持つ診断員が手動で補完します。
結果分析
検出された脆弱性については、CVSS(共通脆弱性評価システム)といった評価指標をもとに深刻度を数値化し、ビジネスへの影響度とあわせて優先順位をつけて対応を検討します。CVSSは、脆弱性の攻撃難易度、影響度などを総合的にスコア化するもので、脆弱性対応の判断材料として広く用いられています。
また、誤検知の除外や実際の攻撃可能性の検証により、実用的で正確な分析結果を得ることが重要です。
改善
分析結果に基づき、具体的な対策を講じます。セキュリティパッチの適用や設定の見直しといった技術的対処だけでなく、運用ルールの改善や社員教育といった管理面の対策もあわせて検討します。対策実施後は再診断を実施し、改善が確実に反映されているかを検証します。
脆弱性診断を効果的におこなうポイント
効果的な脆弱性診断を実施するために、とくに重要な3つのポイントをご紹介します。
明確な目的設定
「とりあえず全システムを診断する」という曖昧なアプローチでは、予算・リソースの無駄遣いとなりかねません。重要システムの優先度検討や、特定の脅威に対する集中的な診断など、明確な目的設定が重要です。経営リスクの観点からも診断の優先順位を検討し、限られた予算とリソースを効果的に配分しましょう。
適切なサービス・ベンダーの選定
効果的な脆弱性診断には、ツールによる自動検出だけでなく、診断設計から結果分析、改善提案まで一貫した専門知識が必要です。とくに診断後は、脆弱性の影響度を正しく評価し、自社の環境に適した実行可能な対策を提案できる専門性が求められます。
そのため、単なる診断結果の報告にとどまらず、ビジネスの視点も踏まえてセキュリティ戦略の構築まで支援できる、専門家によるサポート体制のあるサービスやベンダーを選ぶことが重要です。
継続的な実施
脆弱性診断は一度きりではなく、定期的な実施することが重要です。日々新たな脆弱性が発見されているため、継続的な実施に加えて、システム変更時などの重要なポイントでも脆弱性診断を計画に組み込みましょう。継続的な取り組みによって、組織のセキュリティレベルを着実に向上させることができます。
一般的には「半年~1年に1回の定期実施」に加え、下記のタイミングでの実施が推奨されます。
- 新規システムのリリース前
- 大規模アップデート後
- 構成変更(サーバー構成、アクセス制御の変更)時
- 法規制の更新時またはガイドラインに沿った実施
まとめ
サイバー攻撃が高度化し、法規制も年々厳格化するなかで、脆弱性診断は企業の信頼性を守り、事業継続を支える重要な経営課題となっています。ただ、一度診断をすればよいというものではなく、継続的な診断と改善のサイクルを回し、最新の脅威に対応し続けることが必要です。こうした取り組みには、リスクを的確に見極め、実効性のある対策まで支援してくれる専門性の高いサービスや信頼できるベンダーのサポートが受けられると、より安心です。
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