クラウドファーストとは? 政府方針とガバメントクラウドを踏まえたメリットと注意点を徹底解説

公開:最終更新日:

クラウド活用がITインフラの主流となりつつある現在、「クラウドファースト」は企業のIT戦略における重要なキーワードとなっています。しかし、「まずクラウドありき」と言われても、レガシー刷新の時期やコスト、セキュリティへの不安などから、導入に慎重な姿勢を取る企業も少なくありません。
本記事では、政府の「クラウド・バイ・デフォルト原則」やガバメントクラウドの最新動向を踏まえ、クラウドファースト戦略のメリットと注意点を解説します。さらに、導入前のアセスメント手順やセキュリティ対策についても取り上げ、クラウド移行を成功に導く具体的なポイントを紹介します。

目次
  1. クラウドファーストとは?
    1. クラウドファーストの定義
    2. クラウドファーストとクラウドネイティブ・クラウドスマートの違い
  2. クラウドファーストが注目される理由
    1. DX推進の流れとITインフラ刷新
    2. 政府方針の影響と業界の動き
  3. クラウドファーストのメリット
    1. スピードと柔軟性
    2. コスト最適化
    3. 運用負担の軽減
    4. BCP(事業継続計画)対応
    5. 技術革新への対応力
  4. クラウドファーストの注意点とリスク
    1. すべてのシステムに適しているとは限らない
    2. コストが想定以上に増加する可能性がある
    3. 人材が不足している
    4. 責任分界点を明確化する必要がある
  5. 政府の「ガバメントクラウド」施策
  6. クラウドファースト導入に向けた準備
    1. 導入前のアセスメント
    2. 経営層の理解と意思決定の確保
    3. 最適なクラウドサービスの選定
    4. セキュリティ設計の見直し
  7. まとめ

クラウドファーストとは?

デジタル化が進む現在、システムを導入する際に「まずクラウドで実現できるか」を検討する企業が増えています。ここで、その前提となるクラウドファーストの考え方と、関連用語との違いを解説します。

クラウドファーストの定義

クラウドファーストとは、情報システムを新たに構築したり刷新したりする際に、クラウドサービスの利用を前提に検討する方針を指します。

従来のようにオンプレミスを基本とするのではなく、まずSaaS・PaaS・IaaSといったクラウドサービスで要件を満たせるかを確認し、満たせない場合に限り、社内システムの構築を検討するのが特徴です。

クラウドファーストとクラウドネイティブ・クラウドスマートの違い

クラウドファーストは、クラウドの活用を優先的に検討する「経営方針」です。一方、クラウドネイティブはマイクロサービスやコンテナなどの技術を活用し、クラウド環境で性能と柔軟性を最大限に引き出す設計・開発手法を指します。

また、クラウドスマートはクラウド導入後の運用を最適化する考え方であり、マネージドサービスの活用やFinOpsによるコスト管理を重視します。企業はまずクラウドファーストで採用を決断し、クラウドネイティブの手法でシステムを構築し、クラウドスマートの姿勢で賢く運用する。この三段階を踏むことで、クラウドの価値を最大化できます。

クラウドファーストが注目される理由

クラウドを優先する動きは、一過性の流行ではなく、企業と公共機関の双方で欠かせない選択肢になりつつあります。ここで、その背景となる2つの潮流を見ていきましょう。

DX推進の流れとITインフラ刷新

自社の競争力を維持するには、データ活用やサービス提供のスピードを高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせません。オンプレミス環境では、新サーバーの調達やネットワーク構築に時間がかかり、ビジネスのアイデアを素早く形にすることが難しくなります。クラウドを前提にすれば、必要な計算リソースやストレージを短期間で確保できるため、開発や検証のリードタイムを大幅に短縮できます。

さらに、将来の負荷増に合わせて段階的に拡張できるため、過剰投資のリスクを抑えつつ柔軟な成長を図れます。DXを具体化するうえで、クラウドファーストはすでに前提条件になりつつあるといえるでしょう。

政府方針の影響と業界の動き

政府は、2018年に公表した「クラウド・バイ・デフォルト原則」において、公共分野のシステム調達においてクラウドを第一候補とする姿勢を示しました。この方針により、自治体や省庁でもクラウド移行の意義が明確になり、ガバメントクラウドを中心とした共通基盤の整備が加速しています。公的機関がクラウドを選択した事実は、民間企業にとっても安全性や信頼性への大きな後押しとなりました。

さらに、2024年には方針が「クラウドスマート」へ発展し、マネージドサービスや自動化ツールを活用した効率的な運用が求められています。主要ベンダーが国内データセンターの拡充や認証取得を進めるなか、さくらインターネットもガバメントクラウド対応を強化しています。このように、政策と業界の動きが連動することで、クラウドファーストへの関心と採用は今後も高まる見込みです。

自治体システム標準化については、以下の記事でくわしく解説しています。

クラウドファーストのメリット

クラウドを第一候補に据えることで、企業はコストとスピードの向上にとどまらず、ビジネス拡張の可能性まで広げられます。ここで5つの観点から、その具体的なメリットを見ていきましょう。

スピードと柔軟性

クラウド前提でシステムを構築すれば、ハードウェア調達や設置作業を待つ必要がありません。サービス申し込みから数分で計算リソースやデータベースを用意できるため、新規サービスの開発や検証をすぐに開始できます。

環境を複数用意して並行検証することも容易で、仕様変更にも即座に対応可能です。結果として、企画からリリースまでの時間を短縮し、市場や顧客のニーズに合わせたタイミングでサービスを投入できます。

コスト最適化

オンプレミスの場合は初期投資が大きく、将来のピーク負荷を見込んで過剰な設備を抱えがちです。一方、クラウドは使った分だけ課金される従量課金制をはじめとした柔軟な料金体系が用意されています。そのため、まずは最小構成で開始し、実際の利用状況に応じて柔軟に拡張するといったことも可能です。

近年は長期契約割引やリザーブドインスタンスも充実しており、計画的に活用すれば総コストをさらに抑えられます。導入後のサーバー保守や電力コストも不要になり、運用フェーズの支出削減にもつながります。

運用負担の軽減

クラウドサービスは、インフラ層の監視、パッチ適用、障害対応を事業者が担当します。ユーザー企業はOS更新やハード故障といった日常的なメンテナンスから解放され、ダッシュボードでリソースを一元管理できます。

その結果、IT部門はインフラ運用ではなく、アプリケーション改善やビジネス施策に時間を充てられます。さらに、インフラ設定をコード化して自動適用する仕組み(IaC)や自動スケーリングを組み合わせれば、人手に頼らない安定運用が実現し、担当者の負荷をいっそう軽減できます。

BCP(事業継続計画)対応

多くのクラウドサービスでは、バックアップや冗長構成を簡単に設定できる仕組みが用意されており、データを別拠点へレプリケーションする設定も容易です。そのため、災害や障害が発生した場合でも、サービスを迅速に復旧できる高可用性が確保され、業務の中断を最小限に抑えることが可能です。オンプレミスのように高額な予備設備を用意する必要がなく、コストを抑えながら事業継続への備えを強化できます。

また、管理コンソールからバックアップ取得やフェイルオーバーも簡単に設定できるため、BCPの策定と運用にかかる工数を大幅に削減できます。

技術革新への対応力

AI、IoT、ビッグデータ分析などの新技術は、クラウド上でマネージドサービスとしていち早く提供されます。オンプレミスでゼロから環境を整える場合に比べ、初期導入のハードルが大幅に低く、トライアルから本番展開への移行もスムーズです。

さらに、機能追加や性能向上が定期的にサービス側で自動的に適用されるため、アップグレード作業に追われることもありません。こうした環境は、技術革新のスピードに遅れを取らずに対応するための強力な土台となります。

クラウドファーストの注意点とリスク

クラウドには多くの利点がありますが、導入後に思わぬ課題に直面することも少なくありません。クラウドファーストの判断で失敗しないよう、押さえておきたい4つのポイントを見ていきましょう。

すべてのシステムに適しているとは限らない

多くのメリットを備えているクラウドですが、あらゆるシステムに適しているとは限りません。たとえば、非常に高いリアルタイム性が求められる制御系システムや、特殊なハードウェアを前提とする処理では、オンプレミスのほうが安定する場合があります。

また、業種や用途によっては、法規制により物理的な隔離や国内設置が義務づけられるケースも存在します。そうした場合、クラウドでは技術的・契約的に要件を満たせない可能性も考慮する必要があります。

クラウドファーストを基本方針とする場合でも、各システムの要件を丁寧に分析し、クラウドとオンプレミスを適材適所で使い分ける柔軟な判断が不可欠です。

コストが想定以上に増加する可能性がある

クラウドは従量課金のため、使い方次第で月額費用が予想以上に増加するリスクがあります。

とくに、不要なインスタンスの放置や大容量データ転送は、想定外の高額請求につながりかねません。

利用状況をモニタリングし、不要リソースを自動停止する仕組みや長期割引プランを組み合わせるなど、継続的なコスト最適化が必要です。導入前だけでなく運用フェーズでも定期的な可視化・見直しを習慣化し、想定外のコスト増を未然に防ぎましょう。

人材が不足している

クラウドは進化が速く、専門知識を持つ人材の需要は高まる一方です。しかし国内では経験者が不足しており、採用や育成に時間を要するのが現状です。社内にスキルを持つ人材がいなければ、設計ミスや設定漏れによるトラブルが増え、結果として運用コストやシステムリスクの増大を招くおそれがあります。

このようなリスクを回避するためにも、早い段階で社内研修や資格取得支援を実施し、必要に応じてマネージドサービスや外部パートナーを活用して知見を補う体制を整えることが重要です。

責任分界点を明確化する必要がある

クラウドサービスでは、事業者と利用者の責任範囲が「共有責任モデル」として明確に定義されています。たとえばIaaSの場合、ハードウェアや仮想化層の管理は事業者が担当し、OSやミドルウェア以降の保守は利用者側の責務となります。

責任分担を正確に理解しないまま導入を進めると、「バックアップを取得していなかった」「ファイアウォール設定が不十分だった」といった利用者側の不備で、セキュリティ事故が発生する恐れがあります。サービス利用規約を精査し、自社の運用範囲と事業者の管理範囲を可視化したうえで、適切なガバナンス体制を確立しましょう。

政府の「ガバメントクラウド」施策

行政のクラウド移行を後押しするため、政府は「ガバメントクラウド」と呼ばれる共通基盤を整備しています。この基盤は、厳格なセキュリティ基準を満たすクラウドサービスをカタログ化し、府省庁や自治体が共通で利用できるようにした仕組みです。「クラウド・バイ・デフォルト原則」の具体策として位置づけられ、複数ベンダーが選定されているため、利用者は要件に合ったサービスを柔軟に選択できます。

施策の目的は、おもに3つあります。第一に、ばらつきのあった審査・契約手続きを共通化し、調達コストを削減すること。第二に、基幹業務システムを標準化して自治体間のサービス格差を解消すること。第三に、多拠点冗長構成により、災害時でも行政サービスを停止させないことです。住民基本台帳や税務など複数の業務システムが移行対象となり、2025年度末の本格稼働を目指して段階的に移行が進んでいます。

ガバメントクラウドの基準は民間企業にも指標を提供し、金融や医療など規制業界のクラウド採用ハードルを下げています。さくらインターネットも要件適合に向けた取り組みを公表しており、国内事業者として公共インフラを支える体制を強化中です。政府が高い安全基準を示したことで、国内全体のクラウド利用を底上げする効果が期待されています。

ガバメントクラウドについては、以下の記事でくわしく解説しています。

クラウドファースト導入に向けた準備

クラウドを優先する方針を掲げても、計画や体制が整っていなければ移行は進みません。ここで、クラウドファーストを実行に移す際に押さえておきたい4つの準備ステップを解説します。

導入前のアセスメント

最初のステップは「現行システムの棚卸し」です。業務ごとに機能、利用者数、ピーク負荷、データ連携の有無を整理し、クラウド化が容易なシステムと慎重な検討が必要なシステムを切り分けます。あわせて、今後3~5年の事業計画を踏まえ、機能拡張や組織再編が見込まれる領域を抽出しましょう。

こうした情報をもとに、クラウド移行の優先順位と段階的なロードマップを作成すれば、関係者の合意形成がスムーズに進みます。アセスメント時点で課題と目標を可視化しておけば、移行後の評価指標も明確になります。

経営層の理解と意思決定の確保

クラウドファーストはインフラの話にとどまらず、経営判断に直結するテーマです。導入効果をわかりやすい数字で示し、投資判断の材料を整えることが欠かせません。たとえば、オンプレミスで必要だったサーバー更新費用や保守契約費を試算し、クラウド移行後の総コストと比較します。

同時に、リードタイム短縮やBCP強化といったビジネス機会の拡大やリスク低減につながる指標を提示することも有効です。クラウド導入に伴うリスクと対策を整理し、取締役会や情報セキュリティ委員会で正式に承認を得れば、社内外の協力を得やすくなるでしょう。

最適なクラウドサービスの選定

次のステップは「サービス選定」です。価格だけで判断すると、容量単価の安いストレージや大規模割引に目を奪われがちですが、長期的にはサポート体制やマネージドサービスの充実度が運用コストと品質に大きく影響します。

SaaS・PaaS・IaaSのどこまでをアウトソースするかを決め、冗長構成を組む場合は異なるリージョンや複数ベンダーの組み合わせも検討します。さらに、政府調達基準や金融機関ガイドラインなど業界ごとの規制を満たしているかも確認しましょう。業務特性に合ったサービスを選ぶことで、移行後のトラブルを回避できます。

セキュリティ設計の見直し

クラウドに移行すると、ネットワーク境界の考え方が大きく変わります。社内LANだけで完結していたシステムでも、クラウド利用時にはインターネットや外部APIと通信するケースが増えるため、「ゼロトラスト」を前提としたアクセス制御の必要性が高まります。ゼロトラストとは「ネットワーク内外を問わず一切を信用せず、すべてのアクセスを都度検証する」セキュリティモデルであり、ID・端末・通信経路をつねに認証・監視して初めてアクセスを許可する仕組みです。

まずは機密データと公開データを分類し、暗号化ポリシーやバックアップ方針を策定します。次に、ID管理と多要素認証を導入し、権限を最小限に絞って内部不正のリスクを抑制しましょう。最後に、クラウド監査ログの保存期間と監視体制を定め、インシデント対応プロセスを文書化しておくと、万一の際も迅速に行動できます。

設計段階でセキュリティ要件を明確にしておけば、クラウド移行フェーズでの再設定や手戻りを防ぎ、クラウド導入を安全に進められます。

まとめ

クラウドファーストは「まずクラウドで実現できるか」を検討する姿勢であり、企業の俊敏性と競争力を高める選択肢です。迅速な導入、コスト最適化、運用負荷の軽減、BCP強化といったメリットはDX推進の土台となる一方で、システム適合性の判断やコスト増、人材不足、責任分界点などの課題もあるため、クラウドファーストの成功には慎重な計画が欠かせません。

政府のクラウド推進策も追い風となる今、企業はアセスメントで移行の優先度を見極め、経営層の理解のもと最適なサービスとパートナーを選定することが重要です。さらに、ゼロトラストを前提としたガバナンス体制を構築し、継続的に管理することでクラウドの価値を最大化できます。

さくらインターネットは国内データセンターの強みと豊富な運用実績を生かし、政府が定めるガバメントクラウドの厳格な基準への適合に向けて、いち早く取り組みを進めています。この高い信頼性を基盤に、お客さまのクラウドファースト戦略を支援します。アセスメントから設計、移行、運用まで専門チームが伴走し、最適なソリューションをご提案いたします。

クラウド移行をご検討中の方は、ぜひ一度さくらインターネットにご相談ください。安全で堅牢なクラウド基盤で、お客さまのビジネスの成長とDX推進を力強く後押しします。

さくらのクラウドチーム
制作者

さくらのクラウドチーム

コラムでは、さくらのクラウドに関連するビジネス向けの内容や、ITインフラ技術の説明などを掲載しています。