【2025年決定版】中小企業のクラウドサービス導入ガイド

近年、クラウドサービスの普及が加速し、大企業だけでなく中小企業にとっても「クラウド導入」は無視できない選択肢となっています。リモートワークや業務の効率化、コスト削減といったニーズの高まりを背景に、クラウドの活用は経営戦略の一環として注目されています。
しかし一方で、「セキュリティは大丈夫?」「ITにくわしい人材がいなくても導入できるのか?」といった不安の声があるのも事実です。中小企業がクラウドを導入するには、メリットだけでなく、導入前に知っておくべき課題や注意点を理解しておくことが重要です。
本記事では、クラウドサービスの基本から、中小企業が導入すべき理由、考慮すべきリスク、導入成功のポイント、そして実際の活用事例までをわかりやすく解説します。
クラウドサービスとは
クラウドサービスとは、インターネットを通じてデータ保存やアプリケーションの利用ができる仕組みの総称です。自社でサーバーを設置したりソフトウェアを開発したりする必要がなく、クラウド事業者が提供しているサービスのなかから欲しい機能だけを「借りる」形で利用できます。
クラウドサービスは、おもに以下の3種類に分類されます。
IaaS(Infrastructure as a Service)
サーバーやネットワークなどのインフラ部分を提供するサービスです。ユーザーは自社で物理的なサーバーを設置・運用する必要がなくなり、柔軟なシステム構築や運用リソースのスケーリングが可能になります。
例:Amazon EC2、Azure Virtual Machines
PaaS(Platform as a Service)
アプリケーションの開発や運用のための環境(プラットフォーム)を提供するサービスです。ユーザーは安定した開発・実行環境の上で、自社サービスの開発や提供に集中できます。
例:Google App Engine、Heroku
IaaS(Infrastructure as a Service)
アプリケーションソフトそのものをインターネット経由で提供するサービスです。
例:Zoom、Googleドライブ、Chatwork
中小企業にとってもっとも身近なのが、SaaS型のクラウドサービスです。たとえば以下のようなツールは高度なITスキルがなくとも使えるため、多くの企業で利用されています。
- オンライン会議:Zoom、Microsoft Teams、Google Meetなど
- ファイル共有:Dropbox、Googleドライブ、Boxなど
- 会計ソフト:freee、MFクラウドなど
- コミュニケーションツール:Slack、Chatwork、 LINE Worksなど
中小企業のクラウド導入の現状
2020年代初頭のコロナ禍をきっかけに、多くの企業でSaaS型クラウドサービスの導入が進みました。その後、オフィス回帰・対面ビジネスの再開が進むなかで、テレワークやオンライン会議は業務効率化手段の1つとして残りました。
大企業を中心に、感染症の流行や災害に備えたBCP(事業継続計画)施策や、従業員の定着率を高めるためのテレワーク拡充などにもクラウドが活用されています。
一方で、中小企業は大企業ほどクラウドの利用は進んでいません。コストや人材、情報の不足などから以下のような課題が残り、思い切った導入が難しいためだと考えられます。
- 無料プランは使っているが、いまひとつ業務が効率化できていない
- さまざまなサービスがあるが、それらすべてに課金する必要があるとは思えない
- 使いこなせる人材が少ない
- セキュリティ面への不安
中小企業がクラウドを導入すべき4つの理由
これらの課題を解消し、中小企業が効果的にクラウド導入を進めるには、まず「クラウド利用のメリット」を押さえる必要があります。
コストを抑えて導入できる
従来のシステム導入では、要件定義や見積もり、契約、サーバーやソフトウェアライセンスの購入などが必要でした。クラウドサービスは、すでに存在するサービスから自分が必要な機能だけを選んで「とりあえず使ってみる」ことが可能です。
導入までの工数が劇的に下がったため、「とりあえず使ってみて、良さそうだったら上位プランに申し込む」という検討ができます。クラウド事業者もそれを見越して、個人向けプランを無料にしたり、上位プランをお試しで使える期間を設けたりしています。
テレワークや多様な働き方に対応
「いつでも、どこからでも」アクセスできるのが、クラウドサービスの大きな特徴です。多様なデバイスで、オフィス外からでも社内システムやデータにアクセスできることから、テレワークや外回りの多い従業員の業務効率化がはかれます。
また、リモートで業務にあたれる体制を整備することで、多様な働き方の受け入れが可能になります。優秀な人材の獲得にも有利になり、企業にとってもっとも重要な「人の質」の向上が見込めるでしょう。
情報共有・意思決定のスピード向上
リアルタイムで情報が更新され、どこからでも最新の情報にアクセスできるようになることで、意思決定のスピードが向上します。
ファイル共有によるビジネスデータの活用はもちろん、協働作業に特化したツールでは「オンラインで会議をしながら1つのファイルを複数人で同時に編集する」といった作業が可能になります。
また、防災に特化したサービスを使えば、大規模災害時に従業員の安全を確認し、出社や事業継続の意思決定を全員に伝えて、安全かつ迅速に業務の再開に備えられるようになります。
これらがすべてリモートで、リアルタイムでできるのがクラウドサービスの大きな利点です。
専任のIT人材がいなくても導入・運用できる
専任のIT担当者を置くのが難しく、総務部がIT部門を兼任するケースは珍しくありません。専任の担当者がいる企業でも、いわゆる「ひとり情シス」として1人が全社のIT関連業務を引き受けているような場合、担当者は多忙に追われて新たなシステムの検討は困難です。
そのような環境では、技術的な専門知識がなくても導入でき、サーバー管理やバックアップ、アップデートなどの保守業務もサービス提供側が実施してくれるクラウドサービスは心強い味方となります。
導入前に知っておきたいクラウド活用の課題と注意点
ここまでクラウドサービスのメリットを紹介してきました。一方で、課題や注意点には、以下のようなものがあります。
セキュリティに関する不安と対策
クラウドサービスは、企業のシステムやデータを社外の事業者に任せる仕組みです。そのため「データが社内にない」という状態に対して、不安を感じる声があります。
クラウドにまつわるセキュリティインシデントで多いのが「共有設定のミスによって情報が全公開されていた」や「ログイン情報が漏洩した」といった、運用が原因となる例です。
クラウドサービスそのもののセキュリティレベルは自社運用よりも高い状態を維持しやすく、ユーザーは「パスワード管理の仕組みを見直す」や「二段階認証の導入」などの運用ルールでさらにリスクを軽減できます。
また、選定の際に「セキュリティ認証(ISO27001など)を取得しているか」「サーバーが日本国内にあるか」などを基準にすると、より安心して利用できるでしょう。
インターネット環境への依存性
クラウドサービスはインターネット接続に依存します。そのため、1つのサービスに完全に依存すると、業務に支障をきたす可能性があります。
チャットツールを導入しても、それ以外の連絡手段が不要になるわけではありません。電話やメール、SMSなど連絡手段は分散して複数確保し、バックアップ可能な体制を整えましょう。災害時の連絡手段確保として、安否確認用サービスを利用する企業も増えています。
目的が不明確なままでの「とりあえずデジタル化」には注意
気軽に始められるため「とりあえず使ってみる」が可能なのはクラウドサービスの利点でもありますが、一方で「とりあえいろいろ使ってみた」だけでは思うような効果を得られない場合があります。
解決したい業務課題が不明瞭なまま複数のサービスを使うと、連携ができずに「SaaSとSaaSの間で情報を橋渡しする業務」といった手作業が発生し、全体最適化ができません。そのような場合は、業務プロセスの見直しも含めた検討が必要になるでしょう。
従業員のITリテラシーとトレーニング
新しいシステムの導入には、従業員の適応も重要な課題になります。部署や個人によってITリテラシーに差がある場合、有効に使われず、導入の効果が限定的になってしまう場合があります。
段階的な導入やトレーニング支援など、サポートが充実したサービスを選ぶなど、従業員のリテラシーに合わせた選定が必要になるでしょう。
クラウド導入を成功させるためのポイント
ここまで紹介した課題に対応し、クラウド導入を成功させるヒントを以下にご紹介します。
スモールスタートで評価しながら段階的に導入
クラウドサービス導入の成功の鍵は「一気にすべてを変えない」ことにあります。
大きな混乱や急なコスト増大を避けながらクラウド利用を浸透させる手法としては、以下のようなアプローチがよく用いられます。
- まず、一部の業務や少人数のチームで試験的に導入する
- 効果や課題を評価して必要な調整を実施する
- 成功事例を社内で共有し、理解を広げる
- 段階的に対象業務や利用者を拡大する
ベンダーのサポート体制を確認
クラウドサービス選定時には、機能や価格だけでなくサポート体制も重要な判断材料です。
- 電話やチャットなど、希望する問い合わせ方法が用意されているか
- 日本語でのサポートが充実しているか
- サポート対応時間が自社の業務時間と合致しているか
- オンボーディング(導入支援)サービスがあるか
とくにIT人材が不足している中小企業では、手厚いサポート体制があることで導入・運用の不安を軽減できます。
料金体系(定額制・従量課金)の違いを理解して選択
クラウドサービスには多様な料金体系があります。
- 定額制:利用量に関わらず一定額を支払うモデル。利用頻度が高い業務に適している
- 従量課金:実際の利用量に応じて料金が変動する。季節変動がある業務などに適している
- ユーザー(アカウント)単位:利用者数に応じて課金されるモデル。成長フェーズにあり、利用者数が変動する企業に適している
- 機能単位:基本機能+オプション機能の組み合わせで料金が決まるモデル。必要な機能だけを選択可能
自社の業務特性や利用パターンを考慮して適切な料金モデルを選択しましょう。
自社の課題に合った機能を選ぶ(ファイル共有、ERP、CRMなど)
自社の特性や課題に合わせたサービスの選定が導入成功の鍵になるでしょう。
- 基幹システムの刷新:SAP S/4HANA、Oracle NetSuiteなど
- ファイル共有:Google Workspace、Microsoft 365など
- 顧客管理(CRM):Salesforce、HubSpot、Zohoなど
- 会計・財務管理:freee、マネーフォワード、弥生会計オンラインなど
- 人事・労務管理:SmartHR、KING OF TIME、カオナビなど
- プロジェクト管理:Asana、Trello、Backlogなど
業務によっては、クラウド利用がベストではない場合もあります。
補助金や助成金を活用する
中小企業がクラウドサービスを導入する際、さまざまな支援制度を活用することで、コスト負担を大幅に軽減できる可能性があります。
経済産業省の「IT導入補助金」や「事業再構築補助金」、自治体が独自に募集している補助金、金融機関がIT投資に限定して低金利で融資するプログラムなどがあります。
自社の所在地や目的に合わせ、必要に応じてITコーディネーターや中小企業診断士などの専門家に相談することで、より適切な支援制度の選択ができるでしょう。
クラウド活用事例
クラウドは既存のパッケージサービスを利用するだけでなく、企業独自の業務に合わせたシステムをクラウド基盤上に構築することも可能です。自社のビジネスプロセスに完全に適合したシステムを開発できるため、独自性の高い業務や競争優位を持つ企業にとって効果的な選択肢となります。以下に、クラウドインフラを活用して柔軟な自社システムを構築した成功事例をご紹介します。
まとめ
クラウドサービスは、中小企業にとってコスト効率よくITを活用し、業務効率化や働き方改革を実現するための強力なツールです。初期投資を抑えながら、最新のITサービスを利用できるというメリットは、資金に制約のある中小企業にとって大きな魅力といえるでしょう。
しかし、目的が定まらないまま「とりあえず」で導入すると、効果が限定的になってしまう場合があります。自社の課題を明確にして、まずは小規模な範囲でスタートし、効果を検証しながら範囲を広げていくアプローチがおすすめです。
また、補助金や助成金などの支援制度を活用することで、より少ない自己負担でクラウド導入を進められる可能性もあります。専門家のアドバイスを取り入れながら、自社に最適なクラウド活用の形を見つけていきましょう。
中小企業の強みは機動力にあります。デジタル化を進め、競争力の維持・向上にクラウドの利便性をぜひお役立てください。