さくらのクラウドの暗号鍵管理 〜第1回:機密情報を安全に管理するシークレットマネージャ〜

近年、クラウド利用やシステム連携の拡大により、APIキーやパスワードなどを数多く扱うようになりました。クラウドサービスと接続するための「APIキー」、アプリケーションからデータベースへ接続する際の「パスワード」、通信を保護する証明書や「アクセストークン」といった機密情報が、システムの大規模化やセキュリティ対策の厳格化によって増大しているためです。
「シークレット」とは、このようなアプリケーションやシステム連携などで必要になる機密情報のことです。これらシークレットを、システム構築のためにアプリケーションコードや設定ファイルに直接埋め込むと漏洩リスクが高まります。そのため、安全に保管・管理し、不正アクセスを防ぐ「シークレット管理」が重要視されています。
シークレット管理を導入することで、シークレットの安全な保管と暗号化による「セキュリティ強化」、「自動ローテーション」、ログ・監査対応による「コンプライアンス強化」などが期待できます。
この記事では、クラウドでシステム構築・運用するエンジニア・ITシステム企画者に向けて、シークレット管理の基本と、「さくらのクラウド」が提供するシークレット管理サービス「シークレットマネージャ」について解説します。
シークレットとは何か
「シークレット」とは、アプリケーションやシステムが利用する「機密情報」です。代表的な例として、認証パスワードやAPIのアクセスキーがあります。
シークレット漏洩の危険性
開発の現場では、これらの情報を設定ファイルやソースコードに直接記述してしまう場合があります。エンジニアにとって、手軽に扱うことができスピードを優先できるからです。チーム全員で同じシークレットを使う場合、コードに直書きしておけば「すぐ動く」状態を共有できます。環境が整っていない開発プロジェクトでは、代替手段がなくハードコーディングに頼らざるを得ないケースもあります。
しかし、このような体制には大きな危険性があります。ソースコードや設定ファイルにシークレットを直接記述すると、リポジトリにアクセスできるメンバーは誰でも、サーバやデータベース・APIなどを操作できてしまいます。設定の誤りなどによりリポジトリを公開してしまい、シークレットが漏洩するセキュリティ事故も後を絶ちません。
また、シークレットをOSやコンテナの環境変数として扱う場合もあります。この方法は、アプリケーションのコードに直接埋め込まずに済むため管理が容易で、環境ごとに値を切り替えやすいメリットがあります。さらに、設定ファイルに残さずプロセス起動時に渡せるため、CI/CDパイプラインなどでの運用もシンプルです。
メリットがある一方で、環境変数はプロセス一覧やダンプ、ログ出力などから漏洩するリスクがあり、OSレベルの権限を持つユーザーであれば容易に参照できてしまいます。さらに更新やローテーション時にはプロセスやコンテナの再起動が必要になり、大規模環境では運用が煩雑になります。
こうした手法は小規模用途では有効ですが、本番や長期運用では、より安全なシークレットの保管・管理が求められています。
シークレット管理の役割
そこでシークレットを安全に保存・配布・管理するのがシークレット管理です。
シークレット管理を導入すると、APIキーやパスワードなどを用いてアクセスする重要情報を、ユーザー自身が安全に管理できるようになります。「どの重要情報に誰がアクセスできるか」を自分たちでコントロールできるのです。サービス提供者(プロバイダなど)であっても勝手に利用できませんし、たとえ漏洩してもシークレットを破棄すれば他者はアクセス不能になります。最終的な利用権限を常にユーザーが持ちます。つまり、データの主権を守りながら、安心してサービスを利用できるのです。
さくらのクラウドが提供するシークレットマネージャ
シークレットマネージャは、シークレットを安全に保存・配布・管理するシークレット管理ツールです。さくらのクラウドでもシークレットマネージャを提供しています。
さくらのクラウドのシークレットマネージャでは、次の機能を提供しています。
シークレットマネージャの基本機能
- 安全な保管:APIキー、データベース認証情報、セキュアな環境変数、TLS証明書など、機密情報をKMSにより暗号化して保存
- ライフサイクル管理:ローテーションによるシークレットの更新(※1)
- 監査/ロギング:誰がいつアクセスしたかをトラッキングし、セキュリティ・コンプライアンス対応を支援
※1:データベースアプライアンスのパスワードローテーションをリリース予定
図2に、シークレットマネージャを用いたシステムの構成例を示します。

ここでは、アプリケーションサーバがシークレットマネージャからDBパスワードを取得しています。
さくらのクラウドのシークレットマネージャの特長
シークレットマネージャは、さくらのクラウドのサービスと連携することで効果を発揮します。たとえば、さくらのクラウドのAPIキーやデータベースアプライアンスのパスワード管理に利用できます。また、シークレットマネージャのデータ暗号化には、さくらのクラウドが提供する「KMS」 (Key Management Service) を用います。
シークレットマネージャの導入効果
シークレットマネージャを導入することで、次の効果が期待できます。
- セキュリティ強化:シークレットをアプリケーションや人手で管理せず、クラウド基盤で安全に保護できる
- 運用効率化:シークレットの更新や削除を自動化でき、属人的な管理から脱却できる
- コンプライアンス対応:PCI DSS、HIPAA、ISO27001、GDPRなど規制要件に沿った管理を実現できる
特に、ソースコードや設定ファイル・リポジトリに鍵を保存するケースを排除でき、開発プロセスにおける安全性の向上に効果を発揮します。シークレット変更時にはアプリケーションの再デプロイが不要になり、運用の煩雑さも回避できます。
KMSキーの管理はユーザーの責任で
シークレットマネージャ自体のデータ暗号化には、さくらのクラウドが提供する「KMS」 (Key Management Service) を用います。
誤ってKMSキーをユーザーが紛失・削除してしまった場合には、クラウド事業者であっても暗号化されたデータの復元は不可能なので注意してください。そもそもシークレットマネージャやKMSは、暗号化されたデータを第三者に解読させないためのソリューションだからです。
特に、KMSキーを削除すると、KMSキーを利用して暗号化されたシークレットマネージャのデータも復元できなくなります。KMSキーの削除は慎重に行ってください。
まとめ
クラウド利用やシステム連携の拡大により、セキュリティ強化・運用効率化・コンプライアンス対応のため、鍵とシークレットの管理が重要かつ不可欠になっています。
さくらのクラウドでは、そのために次のサービスを提供しています。
- 「シークレットマネージャ」サービス紹介ページ
- 「KMS(Key Management Service)」サービス紹介ページ
- クラウドHSM(Hardware Security Module)
この記事では、そのうちのシークレットマネージャについて解説しました。安全なクラウドシステムの構築・運用のため、さくらのクラウドのシークレットマネージャを活用ください。
各サービスの機能や使い方の詳細は、さくらのクラウドマニュアルをご覧ください。