クラウド運用とは? 導入メリット・効率化のヒントを解説

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クラウドサービスは多くの企業にとって不可欠なインフラとなりましたが、導入後の「運用」をどう最適化するかが、その効果に大きく影響します。
とくに、クラウドにはコスト削減や柔軟な拡張性といった利点がある一方で、運用管理の複雑さやセキュリティ、スキル不足などの課題も存在します。これらに適切に対応するには、自社に合った戦略の策定と、継続的な技術対応が求められます。
本記事では、クラウド運用の基本から課題、改善の方向性までを整理し、効率的かつ安定したクラウド活用のためのポイントまで幅広く解説しています。

目次
  1. クラウド運用とは?
  2. クラウドのおもな種類とその運用方法
    1. パブリッククラウド
    2. プライベートクラウド(ホステッド型・オンプレミス型)
    3. ハイブリッドクラウド
    4. マルチクラウド
  3. クラウド運用のメリット
    1. 初期投資の削減(オンプレ比)
    2. リソースのスピーディな拡張
    3. 保守作業の軽減
    4. 可用性の確保(自動フェイルオーバーなど)
    5. 場所を問わないアクセス性
    6. 柔軟なビジネス展開とイノベーション支援
  4. クラウド運用における課題
    1. 人材・スキルの不足
    2. コスト管理の難しさ
    3. セキュリティ・コンプライアンス対応
    4. 運用負荷の増大
  5. 効率的なクラウド運用を実現するための対策
    1. クラウドファースト戦略の策定
    2. リソースの最適化とパフォーマンス監視
    3. 自動化(IaC・スケーリング)の導入
    4. バックアップ・DR設計の見直し
    5. ナレッジの共有とドキュメント整備
  6. まとめ

クラウド運用とは?

クラウド運用とは、クラウド上で稼働するインフラやサービスを安定かつ効率的に維持・管理するプロセスを指します。単なるサーバー管理だけではなく、パフォーマンス最適化、コスト管理、セキュリティ対策、障害対応、可用性確保、運用の自動化、継続的改善なども含みます。

幅広い業務の効率的な実施が求められ、とくに近年はDevOpsやSRE(Site Reliability Engineering)の考え方と密接に関わる分野とされます。

クラウドのおもな種類とその運用方法

クラウドは、プロバイダーが提供するインフラを複数企業で共有する「パブリッククラウド」と、自社専用のインフラを占有的に利用する「プライベートクラウド」の2種類に分かれます。それぞれにメリットとデメリットがあり、運用のポイントも異なります。

パブリッククラウド

パブリッククラウドはインフラを複数企業で共有するため、費用が抑えやすいという特徴があります。一方で、費用の変動が大きい、他社のトラフィックが自社に影響する(ノイジーネイバー問題)などの課題があり、スケーリングの最適化が重要になります。

運用のポイント

  • 従量課金プランに合わせたコスト最適化
  • オートスケーリングによるリソース効率化

パブリッククラウドに向けたマネージドサービスは豊富に提供されています。データベース、コンテナオーケストレーション、サーバーレスなどがあり、インフラの管理負担を大幅に軽減できます。

プライベートクラウド(ホステッド型・オンプレミス型)

自社専用インフラをクラウド技術で管理する形態で、自社データセンターで運用するオンプレミス型と、専用ホスティングサービスを利用するホステッド型があります。セキュリティやカスタマイズ性に優れる反面、リソースの拡張性には物理的な制約があります。

運用のポイント

  • 仮想化技術(VMware、OpenStackなど)による効率的な管理
  • 独自の承認フローやガバナンスルールの適用
  • 障害対応とBCP策定

ハイブリッドクラウド

パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせ、データやアプリケーションを環境間で連携させます。

運用のポイント

  • 環境間で一貫したポリシーを適用する
  • データ連携と同期の自動化
  • 統合監視と可視化
  • 一定以上の負荷にパブリッククラウドを利用する設計と実装

既存システムの資産を活かしつつ、クラウドの柔軟性も享受できること、ベンダーロックインの回避、コスト最適化などが見込める一方、運用が複雑になるため、クラウド間の可観測性・運用統合・セキュリティポリシー整備が重要になります。

マルチクラウド

複数のクラウドプロバイダーのサービスを並行利用する形態です。ベンダーロックインの回避や各プロバイダーの強みを活かせるメリットがある一方、運用はハイブリッドクラウドよりもさらに複雑になります。

運用のポイント

  • 複数環境の一元管理ツールの導入
  • サービス間連携のAPI管理
  • クラウド間でのセキュリティ統制
  • コスト最適化と予算管理
  • 障害発生時の切り替え戦略

クラウドオーケストレーションツールでサービス間の連携を自動化・一元管理し、最適なリソース活用を目指すことになります。

クラウド運用のメリット

クラウド運用は企業システム全体の安定性を高め、ビジネスの加速を支えます。以下に具体的なメリットを紹介します。

初期投資の削減(オンプレ比)

クラウドでは自社でサーバーやネットワーク機器などの物理的な機器を調達する必要がなくなります。サーバールームやデータセンターのために必要な設備(電源、空調、セキュリティ設備など)も不要になり、事業に必要なリソースを必要な分だけ使えます。

総所有コスト(TCO)を大幅に削減し、支出も資本支出(CapEx)から運用支出(OpEx)へシフトできるため、財務的な柔軟性も向上できます。

リソースのスピーディな拡張

需要に応じて数分から数十分でコンピューティングリソースが拡張でき、季節的なトレンドの変動やトラフィックの急増にも対応できます。「トラフィックの変動に備えて事前に十分なリソースを確保しておく」といった過剰調達も不要になります。

スケーリングを自動化すれば、設定したメトリクスに基づいて自動でリソースを増減して最適なパフォーマンスとコストバランスを維持できます。ピーク時の性能要件を満たしつつ、通常時のコスト効率も最大化できるのが大きな利点です。

保守作業の軽減

ハードウェアの故障対応やOSパッチ適用など、インフラレベルの保守はクラウド事業者が担います。運用チームの負担を軽減し、セキュリティ更新プログラムの適用遅れによるリスクも減少します。

可用性の確保(自動フェイルオーバーなど)

複数のAZ(アベイラビリティゾーン)やリージョンをまたいでリソースを分散配置することで、単一障害点を排除でき、障害検知時に自動でリソースを再作成したり、正常なリソースにトラフィックを切り替えたりといった高度な可用性確保が可能になります。

それによって障害からの復旧時間(MTTR)の短縮が実現し、災害や局所的な設備障害にも耐えられる堅牢なシステムを構築できます。

場所を問わないアクセス性

インターネット接続があれば、世界中どこからでもリソースにアクセスでき、テレワークや他拠点展開がスムーズになります。地理的制約から解放されることで、人材採用の幅も広がります。

柔軟なビジネス展開とイノベーション支援

新規事業の立ち上げやPoCに必要な環境を迅速に構築でき、生成AIやIoT、データ分析基盤といった最新の技術環境をすぐに試せます。

大規模な先行投資なしに先端技術を活用でき、低リスクで実験的な取り組みに着手できるため、市場変化に合わせた迅速なサービス展開が可能になります。

クラウド運用における課題

クラウド運用のメリットを最大化するには、オンプレミス運用とは異なる技術や運用モデルへの適応、技術環境の変化への対応が求められます。以下では、クラウド運用で多くの組織が直面するおもな課題を紹介します。

人材・スキルの不足

クラウド技術は急速に進化しており、最新のセキュリティやマルチクラウド管理に精通した人材は希少です。

  • クラウドネイティブ技術(コンテナ、サーバーレス等)の専門知識
  • 複数クラウドプロバイダーのサービス仕様の違いへの対応
  • DevOpsやSRE(Site Reliability Engineering)の実践
  • 最新のセキュリティ知識
  • 属人化、サイロ化、ブラックボックス化への対応

技術的な知識を持ち、さらにクラウドを活用したビジネス変革を推進できる人材はさらに少なくなるため、多くの組織が新規人材の募集と並行して、既存人材の再教育を進めています。

コスト管理の難しさ

クラウドは柔軟性が高い一方で、無駄なリソースやスケジュールミスによるコスト増加が起こりやすくなります。

  • 過剰調達や未使用リソースの放置検知
  • 複雑な料金体系とコストパフォーマンス管理
  • 複数サービスの統合的なコスト把握

従量課金制の利点を活かすには、使用状況の継続的な監視と最適化が不可欠です。コスト管理には財務部門が関わることもあります。

セキュリティ・コンプライアンス対応

まず、クラウドならではのセキュリティモデルである「責任共有モデル」の理解が不可欠です。クラウドプロバイダーとユーザーのそれぞれの責任範囲を明確に理解し、適切なセキュリティ統制を実装する必要があります。

  • クラウドネイティブなセキュリティ対策の導入
  • 複数環境間でのセキュリティポリシーの一貫性確保
  • データ主権やGDPR等の地域固有の法規制への対応

運用負荷の増大

クラウドではインフラが柔軟になる一方で、設定や監視、トラブル対応の範囲が広がり、オペレーションの煩雑化が進みます。

  • 従来型の手動運用からの脱却
  • 複数環境の監視・アラート統合
  • 障害発生時の原因特定の複雑化
  • 環境増加にともなうガバナンス維持

適切な運用モデルへ移行できなかったために運用負荷が増大してしまった、というケースも起こります。

効率的なクラウド運用を実現するための対策

クラウド運用のメリットを最大化するには、技術的なアプローチに加えて、組織的、プロセス的なアプローチも重要になります。以下に主要な対策を紹介します。

クラウドファースト戦略の策定

自社のビジネス要件と照らし合わせ、どのワークロードをどのクラウド環境で稼働させるべきかの方針を明確化します。とくにセキュリティ要件の高いシステムや、レイテンシーに敏感なシステムなどの配置方針を決定します。

リソースの最適化とパフォーマンス監視

使用状況に基づいたリソースサイジングの計画を策定します。過剰なスペックのインスタンスをダウングレードする、使用率の高いリソースをアップグレードする、といった調整によってパフォーマンスとコストのバランスを最適化します。

パフォーマンスメトリクスはCPU使用率やメモリ使用率、サービスのレイテンシー、アプリケーションのパフォーマンス指標など多岐にわたります。とくにエンドユーザーの体験に直結する指標を重視すると、ビジネス価値に直結した最適化がしやすくなります。

自動化(IaC・スケーリング)の導入

上記に基づいて、自動化ツールを導入します。

Infrastructure as Code(IaC)では「Terraform」などでインフラ構成をコード化して環境の一貫性を確保します。バージョン管理システムと組み合わせると、インフラ変更の追跡と監査がしやすくなります。

継続的インテグレーション(CI)/継続的デリバリー(CD)パイプラインを構築し、アプリケーションの更新やインフラ変更を自動化します。自動テストと組み合わせることで、品質を維持しながらの迅速なリリースが可能になります。

スケーリングの自動化では、スケーリングポリシーの最適化が重要です。予測可能なトラフィック増加には事前にスケーリングを設定する、といったきめ細かいポリシーの実装で、よりビジネスの実態に合った最適なリソース配分が可能になります。

バックアップ・DR設計の見直し

スナップショット機能やマネージドバックアップサービスを活用して、コスト効率の高いバックアップ体制を構築します。データの重要度に応じた階層化バックアップも効果的です。自動バックアップスケジュールと定期的な復元テストで、より確実な保護を実現します。

ディザスタリカバリ(DR)計画は、複数リージョンやマルチクラウドに冗長構成を置くことで単一クラウドプロバイダーの広域障害に対応する考え方です。

ビジネスインパクト分析をもとに各システムのRPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)を適切に設計することで、コストとリスクのバランスを最適化できます。

ナレッジの共有とドキュメント整備

普段の運用や障害対応の手順を標準化してチーム全体で共有します。とくに緊急時の対応手順は文書化して最新バージョンを共有しておき、担当者が不在でも適切に対応できる体制を整えましょう。運用ドキュメントの整備によって、属人化リスクを低減できます。社内Wikiやナレッジ管理ツールを活用して障害対応の経緯や設計思想、意思決定の理由などを蓄積・共有するのもよいでしょう。チーム内で意識合わせや提案、発見の共有、蓄積などを進める文化を作れば、新規参画メンバーのオンボーディングも効率化できます。

まとめ

クラウド運用には、初期投資の削減や柔軟なリソース拡張など多くのメリットがある一方で、運用やコスト管理が難しい、といった特有の課題があります。

これらの課題を解決し、効率的なクラウド運用を実現するには、自社のビジネスに合わせたクラウドファースト戦略の策定や意思決定が不可欠です。

運用効率は、IaCやCI/CDパイプラインなどの自動化技術を積極的に取り入れることで、向上できるでしょう。クラウド技術は急速に進化しているため、継続的な学習と技術アップデートも重要です。

適切なクラウド運用体制の構築により、ビジネスの俊敏性を高め、イノベーションを加速させることが可能になります。ぜひ本記事で紹介した対策を参考に、自社のクラウド環境の最適化に取り組んでみてください。

さくらのクラウドチーム
制作者

さくらのクラウドチーム

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