ビッグデータ分析のメリットと課題|データ分析にクラウド(IaaS)が有効なケースを紹介
企業が意思決定を迅速かつ効率よくおこなうためにはビッグデータの分析が欠かせません。しかし、ビッグデータを管理および運用していくためには、セキュリティリスクや管理・運用負担などの問題を解決する必要があります。
本記事では、データ分析に課題を感じているシステムエンジニアやIT部門責任者の方向けに、ビッグデータ分析のメリットと課題を解説します。
ビッグデータとは?
ビッグデータとは、デジタル化やIoTの発展により日々生成される、膨大かつ多様なデータのことを指します。ビッグデータには明確な定義はありませんが、身近な例として次のようなものがあげられます。
ビッグデータの一例
- 交通系ICカードに記録される乗車履歴
- GPSから得られる位置情報
- ソーシャルメディア上のテキストデータ
- スマートフォンから収集される行動履歴
- コンビニやスーパーのPOSデータ(販売情報)
- 工場の製造ラインから収集されるセンサーデータ
ビッグデータの主な特徴は次の3つです。
ビッグデータの主な特徴
- Volume(量):膨大なデータ量
- Variety(種類):テキスト・音声・画像・動画・位置情報など多様な種類のデータ
- Velocity(速度):スピード性のあるデータの発生や更新頻度
ビッグデータは、単に量が膨大なだけではありません。多様性に富み、リアルタイムに生成・収集されるデータであることが重要なポイントです。
ビッグデータの重要性
ビッグデータの重要性はますます高まっています。以前は「どのデータを保存すべきか」が焦点でしたが、現在は「データで何ができるか」に関心がシフトしています。
クラウドコンピューティングの普及により、コスト効果の高いビッグデータ分析が可能になりました。企業はこの分析を活用して競争力を強化しています。とくに、構造化・非構造化データを適切に処理し、新たなインサイトを発見するアプローチが重要視されているのです。
ビッグデータの活用事例
ビッグデータの活用事例を5つ紹介します。
- 小売業におけるビッグデータの活用
- 教育業界におけるビッグデータの活用
- 自動車業界におけるビッグデータの活用
- 建設業界におけるビッグデータの活用
- 行政におけるビッグデータの活用
ビッグデータは、身近なところで日常的に活用されています。それぞれ、詳しく見ていきましょう。
小売業におけるビッグデータの活用
小売業やコンビニ業では、ビッグデータを活用し大きく売上を伸ばしています。
たとえば、ローソンは「Ponta」会員データを活用して顧客の購買行動を詳細に分析しています。このデータを基に、どの顧客がどの商品をどれだけ頻繁に購入しているかを把握することが可能です。
たとえば、「ほろにがショコラブラン」という商品は一見売上が低いように見えても、特定の女性顧客からの高いリピート率が判明しました。このデータを活用することで、商品の供給戦略を調整し、機会損失を回避しつつ売上を最大化しています。
教育業界におけるビッグデータの活用
生徒の学習行動や成績、個人の特性などの情報を収集・分析したデータを教育ビッグデータと呼びます。
教育ビッグデータを活用することにより、学生一人ひとりの理解度や学習スタイルに合わせた教材や指導方法を提供できるようになります。これにより、学生は自分の学習進捗を把握しやすくなり、教育者も学生の強みや弱みを正確に把握可能です。
中国では、AIとビッグデータを活用した教育テクノロジー(EdTech)が急速に広まっています。代表例が宿題支援アプリ「作業幇(Zuoyebang)」です。
このアプリは、学生が宿題の問題をスマートフォンで撮影すると3億件のデータベースからAIが解析し、瞬時に解答を提供します。さらに、利用者ごとの特性に応じたアドバイスや練習問題を提案し、学習効果を高めているのです。その結果、企業価値は1兆円以上になりました。
自動車業界におけるビッグデータの活用
自動車業界では、ビッグデータの活用によってさまざまな効果が得られています。たとえば、走行データを収集・分析することで、事故が起きやすい場所や状況を特定できるようになりました。この情報を基に道路設計や交通管理を改善し、事故や渋滞の削減につなげられます。
また、ビッグデータの活用は、車の品質向上と売上アップにも欠かせません。蓄積された車両の性能や耐久性に関するデータを分析することで、より安全で高性能な車の開発が実現できます。さらに、消費者の動向分析により、ニーズに合った車を提供することも可能です。
さらに、ドライバーの運転行動や事故リスクの分析結果を活用し、個々のリスクに応じた自動車保険料の設定もおこなえるようになっています。このように、ビッグデータは自動車産業に多様な革新をもたらしているのです。
建設業界におけるビッグデータの活用
建設業界においても、ビッグデータは日常的に活用されています。
建設業界におけるビッグデータの活用は、プロジェクトのリスクを低減し、効率を向上させるために重要です。たとえば、プロジェクトデータをデジタル化し、機械学習を利用して分析することで、品質や安全性に関するリスクを予見できることにより、プロジェクトの成功確率が高まります。また、データに基づいた意思決定により、工期の短縮やコストの最適化も可能です。
建設業界でビッグデータを活用すると、建設業界全体の生産性が向上し、より安全で質の高いプロジェクトを進行できるようになります。
行政におけるビッグデータの活用
一般企業だけでなく、行政においてもビッグデータの活用が進んでいます。行政が保有する膨大なデータを分析・活用することで、住民サービスの向上や行政の効率化を図っているのです。
たとえば、気象ビッグデータを活用することで、より精度の高い災害予測が可能になります。気象庁のスーパーコンピューターから算出されるのは、最小1キロ平方単位の高性能なリアルタイムのデータです。このデータを効率よく活用することにより、ゲリラ豪雨などの災害の危機が迫っている場合にはいちはやく「アラート」として通知できます。
しかし、気象ビッグデータをそのまま企業や自治体が利用するのは難しいのが現状です。そのため、民間気象会社が間に入り、具体的な判断に利用できる情報に加工しています。
気象ビッグデータの活用は、自然災害に対する事前の備えを強化し、被害を軽減できる可能性があります。今後は省庁を越えた協力や「官民官」連携など、さらなる防災システムの向上が期待されているのです。
ビジネスにおいてビッグデータ活用はメリットが多い
ビッグデータの活用は、現代のビジネスにおいて必要不可欠といっても過言ではありません。企業が競争力を維持し、成長を続けるためには、膨大なデータを効果的に活用することが求められています。
また、ビジネスにおいてビッグデータを活用することは、多くのメリットをもたらします。適切に分析・活用することで、企業はさまざまな場面で競合企業より優位に立てるようになるのです。
具体的なメリットとしては、次のようなものがあげられます。
- 顧客のニーズを的確に把握できる
- 生産性の向上
- 潜在的リスクの早期発見
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
顧客のニーズを的確に把握できる
ビッグデータを活用すると、潜在的なニーズも含めて、顧客が求めているものを的確に把握できます。
たとえば、ビッグデータには購買履歴・閲覧履歴・アンケートデータなど、顧客に関する膨大な情報が含まれています。これらのデータを分析することで、顧客のニーズや行動パターンが可視化されるのです。
さらに、ビッグデータに対してリアルタイムなデータの収集・分析をおこなうことも考えられるでしょう。最新のデータを分析することにより、変化しやすい顧客のニーズに対してもいちはやく対応できるようになります。
生産性の向上
ビッグデータの活用は、生産性の向上にも役立ちます。たとえば、ビッグデータの分析により、製造ラインの稼働状況や品質データをリアルタイムに把握できます。これにより、ボトルネックの特定や不良品の早期発見が可能です。
また、設備のセンサーデータを分析し予防保全をおこなうことで、突発的な故障を防ぎ生産性を高められます。
潜在的リスクの早期発見
ビッグデータを活用した需要予測により、潜在的なリスクを早期に発見し対策できるようになります。たとえば、需要の変化を的確に捉えることで機会損失や在庫リスクを最小限に抑え、ビジネスの安定性と収益性を高められるのです。
たとえば、市場の動向や消費者行動・季節性など、蓄積されている多種多様なデータの分析により高い精度の需要予測ができるようになります。的確な需要予測ができることにより仕入れや生産量を調整し、過剰在庫や在庫切れのリスクを軽減可能です。
ビジネスでビッグデータを活用する際の課題
ビッグデータを効率よく活用することで、企業の成長が期待されますが、活用する際にはいくつかの課題があることも考慮しなければなりません。主な課題は次の3つです。
- データの管理や運用負担が増える
- データ活用・分析ができる人材確保の問題
- セキュリティ対策の強化が必要
それぞれどのような課題を抱えているのか、詳しく説明します。
データの管理や運用負担が増える
ビッグデータは、その名のとおり膨大な量のデータを扱います。この膨大なデータを適切に管理・保存するには、それに見合ったストレージ容量やインフラが必要です。データの整理や選定、ストレージの最適化など、保守と運用にかかる作業負担も増加します。
また、ビッグデータは多種多様なデータを含んでいます。これらのデータを統合し、分析に適した形に加工するには、高度な技術と専門知識が必要です。
ビッグデータの管理や運用が十分にできていない場合、データの品質低下やデータそのものの活用が遅れるおそれがあります。
たとえば、ビッグデータには自社に関係ない情報(ノイズ)も多く含まれています。ノイズが含まれた状態でデータを分析しようとしても、十分な結果は得られません。
ビッグデータの活用には、データ管理や運用負担の増加の問題に対し、データからの価値を最大限に引き出すように取り組むことが欠かせません。
データ活用・分析ができる人材確保の問題
ビッグデータの活用には、統計学や機械学習などの高度な専門知識が必要です。さらに、データの前処理や可視化、分析結果の解釈など、一連のプロセスを遂行できるスキルも求められます。このような専門性の高い人材は希少であり、確保が難しいのが現状です。
また、ビッグデータの活用に取り組む企業が増加したことで、データサイエンティストなどの人材需要が急速に拡大しています。しかし、教育機関からの人材供給が需要に追いついていないため、人材不足が深刻化しているのです。
データ活用・分析人材の確保が進まない状態を放置すると、ビッグデータを効率よく活用できない可能性が考えられます。ビッグデータはリアルタイムに増え続けるため、スピーディーな分析・活用が求められるからです。しかし、適切な人材が不足していると、収集したデータが活用されず、価値を失ってしまう可能性があります。
セキュリティ対策の強化が必要
ビッグデータを扱うときには、セキュリティ対策の強化も必要です。
ビッグデータには、顧客の個人情報や企業の機密情報など、慎重に扱うべきデータが含まれている可能性があります。このような重要なデータを適切に保護しなければ、外部への情報漏洩につながるリスクが懸念されます。
また、ビッグデータは企業にとって非常に価値の高い資産であるため、サイバー攻撃の標的になりやすいことも考慮しなければなりません。不正アクセスや内部不正などによって、データが盗まれたり改ざんされたりすると、企業も個人も大きな被害を被るおそれがあります。
ビッグデータは日々増え続け、リアルタイムに分析および活用されます。そのため、ビッグデータのセキュリティ対策強化は継続的に実施しなければなりません。
ビッグデータ分析にIaaSが有効なケース
データの保存・分析には、非常に複雑で大規模なソフトウェアを使用する必要があります。IaaSでデータ分析環境を構築する場合には、専任の大きなチームを組織して構築・運用しなければならず、データ分析のための環境を手に入れることは容易ではありません。そのため、現在、ビッグデータ分析にはPaaSが使用されるケースが一般的です。
PaaSとは
PaaS(Platform as a Service)は、クラウドコンピューティングの一形態で、開発環境・データベース・ライブラリなどをインターネット経由で提供します。企業は、プラットフォームの運用・保守をクラウドサービス提供事業者に任せられるため、自社の従業員はビッグデータの分析に注力することが可能です。
しかし、特定のセキュリティ要件を満たす必要がある場合や、システムの構成を細かくカスタマイズしたい場合など、状況によってはIaaSが有効なケースもあります。
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前述のとおり、ビッグデータの活用には一般的にPaaSが用いられます。しかし、セキュリティや運用上の制約がある場合などでは、IaaSのほうが有効なこともあります。クラウドサービス提供している企業は数多くありますが、IaaSを利用するなら国内クラウドベンダーであるさくらのクラウドがとくにおすすめです。
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まとめ
ビッグデータとは、デジタル技術の発展により日々生成される膨大なデータ群を指します。これを分析することで、トレンドや顧客ニーズ・リスクパターンなどを発見でき、生産性や生活の利便性向上が期待できます。しかし、セキュリティやデータ管理に関する課題もあるので注意が必要です。
一般的に、ビッグデータ活用にはPaaSが活用されていますが、セキュリティや運用上の制約がある場合などでは、IaaSのほうが有効なこともあります。自社の状況に応じて、PaaSとIaaSのどちらが適切なのかを判断することが重要です。
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